ファイナンス 2024 Apr. 17主計局主計官 漆畑 有浩近年多発する干ばつなど気候要因による食料生産の不安定化に加え、ロシアによるウクライナ侵略、新型コロナ禍からの世界的な需要回復等を背景とした食品原材料や生産資材の価格高騰は、急激な生産コストの増加等を通じ、農業経営にも多大な影響をもたらした。政府としては、急激なコスト上昇に価格転嫁が追いつかない状況等にかんがみ、累次の予備費や補正予算等により応急的な対応を講じてきた。他方、こうした食料をめぐる外的環境の変化に加え、我が国においては、主食用米の需要が減少する一方で、需要がある麦・大豆、加工・業務用野菜を輸入に依存している現状に対し、需要に応じた生産をいかに推進していくか、また、人口減少が避けられない中、生産者の減少にどう備えていくかなど、中長期的な観点から、食料の安定供給の確保に向けた構造転換が求められている。財政制度等審議会(以下「財政審」という)においても、「令和6年度予算の編成等に関する建議」(令和5年11月20日。以下「建議」という)において、「食料をめぐる切迫した状況の下、我が国では少子高齢化が進行しており、今後も人口減少が避けられない中、農林水産業においても、担い手の減少や国内需要の縮小等を前提とした、産業としての構造転換は、今までにも増して重要な課題となっている」との強い危機感が示され、食料生産及びその生産基盤の構造転換について、様々な問題提起がなされた。令和6年度予算は、財政審の指摘を基本的な方針としつつ、農政の基本理念を定める「食料・農業・農村基本法」(平成11年法律第106号)の四半世紀ぶりの改正に係る議論も踏まえながら、中長期的な農政の構造転換に資する所要の予算を計上したところである。以下、令和6年度予算編成における主要施策の考え方等について解説する。ア 食料安全保障の強化食料安全保障については、「食料安全保障強化政策大綱」(令和5年12月27日食料安定供給・農林水産業基盤強化本部。以下「安保大綱」という)において、「農林水産物・生産資材ともに、過度に輸入に依存する構造を改め、生産資材の国内代替転換や備蓄、輸入食品原材料の国産転換やこれに対応し得る産地形成等を進め、耕地利用率や農地の集積率等も向上させつつ、更なる食料の安全保障の強化を図る」ことが基本的な方針として示されている。我が国の農業生産については、前述の通り、人口減少等の影響により中長期的に主食用米の需要が減少する中、補助金(水田活用の直接支払交付金)により、毎年度、主食用米以外の作物への転作を支援する構造が続いており、転作作物として飼料用米に生産が偏重する一方、需要がある麦・大豆などの畑作物については輸入に大きく依存する状況にある。こうした現状に対し、建議においては、「食料生産を増やすのであれば、主食用米の転作助成金等の既存の施策が、むしろ食料の生産性向上を阻害することになっていないか、将来的にも持続可能な制度となっているか」といった視点での議論が必要、また、「水活交付金については、今後も主食用米の需要が減少し、需給バランスの調整のために必要な転作面積が発生し1. 6年度農林水産関係予算の基本的考え方(1)はじめに令和6年度 農林水産関係予算について
元のページ ../index.html#21