はずです。現行の責任編集体制でも可能かもしれませんが、そのような研究をフィナレビが上手く拾い上げ、必要に応じて質の高い論文に査読過程で仕上げた後に掲載できるような仕組みがあると良いと思います。言うは易く行うは難しなのですが。赤井先生(以下、赤井):今、林先生がおっしゃったことの関連でまず1点言うと、やはり海外志向というか、業績を上げるためには海外の学術誌に論文を載せるというのが、世界的な流れになっていますので、それを踏まえた上でフィナレビの位置付けを考えるという視点に立つと、日本の社会にとって意義のあるものを載せていくという、林先生がおっしゃる点は重要だと思います。学術的にクオリティの高い実証分析という、海外と同じようなところを目指すとなると、なかなか住み分けが難しくなります。海外の学術誌には載らないけれど日本では重要なトピックの論文をフィナレビに載せて日本の政策に生かしていくことを目指すことで特色を出せると思います。そのために何をすべきかが大事ですね。多分目指すところは一緒なのですが、フィナレビの特色・役割として重要であると思うところは、日本の財政に焦点を当て、日本の財政や経済を良くするためにどのようなことが必要なのかを考える場であることだと思います。海外の雑誌には日本のためにという視点はないことを踏まえると、日本の財政分野を俯瞰して、フィナレビが担うべき役割は四つほどあると思っています。まず一つ目は、残しておくべき歴史を記録することです。日本の財政においてどのように政策が変わってきたのか、その変化を検証したりしっかり記録したりするという意味のフィナレビの役割があると思います。他の媒体でもそういう取り組みはあると思いますが、フィナレビだからこそできる点はあると思います。二つ目は、現在日本で注目されている財政のトピックに対する研究の整理サーベイです。現在で言えば、そのようなトピックとしてはDX(デジタルトランスフォーメーション)やGX(グリーントランスフォーメーション)などがあると思いますが、それらの政策についての世界や日本の学術研究の現状や進行状況を、林先生もおっしゃったサーベイのような形でまとめることは意義があると思います。重要な分野は色々ありますが、特に日本の政策が今向かおうとしている方向が本当に重要なことなのか、その政策がアカデミックな視点からも正当化されるのかという点を明らかにする意味のサーベイです。三つ目は、現在必要となる知識を深めるための研究です。今後、時代に即した政策を行っていくには、様々な知識を得るため、研究を深めていかなければなりません。今注目されている研究に対して、さらに一歩進んだ研究をして執筆してもらうという、いわゆる学者に新しい研究論文を書いてもらうということだと思います。さらに四つ目が、日本が特に今後直面するようなトピックに対しての事前的研究です。まだその分野は十分出来上がっていないけれど将来必要になってくる研究の基礎づくりをしてもらうということです。特に日本で言うと少子化の問題、高齢化および社会保障の問題、マクロの財政破綻の問題など、世界ではなかなかそこまで議論が進んでいないけれど、日本がこれから直面しそうなところを見て、今までの研究を整理するとともに、将来の方向性を頭出しするような研究などがあり得ると思います。まとめて言うと、単に学術的な論文を掲載して海外学術誌と対抗するよりも、日本の財政という視点から日本の社会に役立つ論文を集めることで、フィナレビの特色を出していけると思います。最後に、フィナレビは財政の研究者を育成する場にもなっていると思います。初めてフィナレビ論文を書く時はまだ年齢も若く、このような舞台で書かせてもらうことに対してのプレッシャーもあれば喜びもある、という感じかと思います。そして、書く機会が、2回目・3回目くらいになると、研究者として中堅になっている。最後、全員ではありませんが、今度は責任編集のような役回りができることになると、それはそれで嬉しいことですし、そのようにフィナレビとともに色々な勉強の機会や執筆の機会をいただいて成長していく財政学者は多いと思うので、そういう意味でもフィナレビは人材育成の意義を持っていると思います。フィナレビで特集されるトピックと、学会でのトピックを連携させるなど、学会とのコラボレーションも興味深いです。その意味で、日本財政学会から見て 82 ファイナンス 2024 Mar.
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