ファイナンス 2024 Mar. 81PRI Open Campus ~財務総研の研究・交流活動紹介~ 291.フィナレビの特色、役割について伴:林先生・赤井先生には以前からフィナレビにご論文を執筆いただいており、2021年からは編集審査委員としてフィナレビに関わっていただいていますが、フィナレビの特色や役割についてどのようにお考えでしょうか。林先生(以下、林):二つあると思います。一つは、学会の研究動向や成果を、政策担当者を含む広いオーディエンスに伝えるプラットフォームとしての機能です。特定のテーマの下、複数の専門家にお願いして論文を編集していきますので、単体のサーベイ論文以上のことができますし、編集にあたっては、特定の強みを持つ多様な研究者にお願いして、ご自身が研究されてきた対象や分野に関するサーベイや解説を行っていただいて、それに、ご自身独自の研究結果を加えていただくのが良いと思っています。もちろん、テーマの設定や人選で責任編集者の手腕が必要になってくるとは思いますが、そうすることで強力な知識のセットを読者の皆さんに提供できると思いますし、そういう意味で、フィナレビは有効なプラットフォームになると思います。二つ目は、現行のフィナレビのフォーマットのままで対応できるかは別の話になりますが、日本特有の重要なトピックを対象とした、日本語で書かれた質の高い研究のアウトレットになることができれば素晴らしいですね。ここ20年ぐらいでしょうか、経済学の分野では、主要な海外学術誌にピアレビューを経た論文を出版してこそ評価されるという傾向が強くなっていますので、先端の研究者が日本語の媒体で自己の主要研究を発表されることは稀になっていると思います。研究者にとっては論文が英語で書かれていようが、日本語で書かれていようが、情報収集の観点からは違いはないのですが、日本語で論文を執筆しないことで、研究者以外の実務家や学生を含む潜在的な読者を多数排除している可能性もあると思います。また、日本特有のトピックに対する実証分析は、よほど普遍的なテーマに関連があるものでないと主要な海外学術誌には掲載されにくくなっていますので、大学院生を含む若い研究者は海外の研究者にアピールできないものは、そもそもの研究対象としなくなってきているように思います。その結果、きちんとした論文を発表する日本語のアウトレットの需要が少なくなっているように思います。海外主要学術誌への志向によって、日本にとっては政策的に重要なトピックであっても、日本特有のトピックであるが故につまり、海外で関心が得られないようなトピックであるが故に、研究の対象として敬遠される傾向があるかもしれません。日本にとっては重要な政策課題であるにもかかわらず、それに関する質の高い研究が行われにくくなっている気がします。こう考えると、日本の政策課題に取り組んだ実証研究で、海外の主要学術誌では掲載されにくいけれどもクオリティが高いものを出せるような、もしくは、そのような研究を行ってもらうインセンティブを与えられるような場所にフィナレビがなれれば素晴らしいと思います。伴:2点目におっしゃった点は、今のフィナレビではまだそこまでは届いていないというご印象ですか。林:クオリティの高い研究を出版するには、やはり、ちゃんとしたエディターの下で適切に選ばれた複数の査読者によるピアレビューが大前提になると思います。現在の責任編集体制にはその機能も期待されているのかもしれませんが、担当者によって濃淡があるかもしれませんし、そもそも執筆者には、こちらからお願いして執筆してもらっていますからね。もちろん、単にピアレビューを行ったからといって、質の高い論文を出版できるというわけでもありません。当たり前の話ですが、そもそも質の高い、もしくは、改訂すれば質が高くなる筋の良い論文がある程度の規模で継続的に投稿される必要があります。しかし、実際は、日本財政学会の学会誌も投稿数が減っていますし、他の主要な日本の経済学関係の学術誌も、昔と比べて投稿数が減っているようです。ただ、海外の主要学術誌には掲載されにくいトピックでも、日本経済や日本財政にとっては重要なトピックや、日本語で発表することに意味がある研究は多い
元のページ ../index.html#85