*2) 「高齢化が財政政策の効果に与える影響」 *3) 平成20年第1号(通巻第88号),特集「日本の資金の流れとその変化要因」 https://www.mof.go.jp/pri/publication/■nancial_review/fr_list8/r145/r145_05.pdfhttps://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/8379094/www.mof.go.jp/pri/publication/■nancial_review/fr_list5/fr88.htmフィナレビを執筆しても実績になりにくいということでしょうか。河合:若手の経済学者には、英語論文を国際的な学術誌に発表することを優先するという傾向があると思います。ただ、そういう若手の人たちに対しては、短期的な実績を上げることだけではなく、長期的な視野で研究することや研究成果を日本語として説明していくことも重要だと説くようにしていました。吉野:私もアメリカにいた時には、アメリカの論文の理論を基にして、日本のデータを使った研究をしていました。確かに研究の最先端ではあるかもしれませんが、アメリカの理論モデルは必ずしも日本にそのまま当てはまらないわけです。したがって、最先端の理論モデルに日本の持続性を当てはめて、アメリカで分析された内容とどこが違ってくるかを見つけることが重要であると考えます。また、最近の研究は、ミクロのデータを用いた精緻な分析が多くなっています。データ処理速度の高速化、利用可能なミクロデータの充実により、さまざまな計量分析が展開できるようになっています。同時に、経済政策の日本経済全体への影響やその波及経路を考える分析も、もっと必要であると思います。理論/実証分析がないままに、マクロ経済政策の議論が進んでしまっている面があり、こうした分野でのさらなる研究も望まれます。で、ユーロ金融危機以降芳しくないユーロがこの先どうなるのか、急速に台頭している中国人民元は地政学的な対立を伴いつつもさらに伸びていくのか、元の存在感に押されている日本円はどのような役割を果たすべきか、中央銀行デジタル通貨の登場は国際通貨システムにどのような影響をもつか、新興諸国にとって経済・金融安定を確保するためのトリレンマ制度の枠組みは何か、IMFや地域金融協力の適切なあり方はどのようなものかなど多くの論点があります。現在の国際通貨システムが直面する課題をかなり深いところまで分析できたと思っています。吉野:145号で執筆した論文*2は、アメリカで使われているモデルに高齢化が進む日本の特徴を含めて分析し、財政政策の有効性が高齢化の下では低下することを導出しました。一方で、88号*3は2008年のものですが、家計の預貯金の比率の高さを分析しました。15年経った現在もまだ預貯金比率が高いままの水準とは当時想像していませんでした。15年間日本の資金の流れがあまり変わらなかったということは、少しショックです。渡部:責任編集をされていて苦労されたことはありますでしょうか。河合:編集するにあたっては、フィナレビだからといって全ての専門家が喜んで執筆を引き受けてくれるわけではなかったので、執筆してほしい方々を説得するのに苦労したことがありました。きちんと全体の枠組みを説明して説得するようにしていました。渡部:執筆依頼にご苦労されたということですが、経済学者としては英語論文を海外の学術誌に投稿することで実績を積むことが重要になっていると聞いており、 78 ファイナンス 2024 Mar.
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