ファイナンス 2024 Mar. 77*1) 令和5年第3号(通巻第153号),特集「21世紀の国際通貨システム」 https://www.mof.go.jp/pri/publication/■nancial_review/fr_list8/fr153.htmlPRI Open Campus ~財務総研の研究・交流活動紹介~ 291.フィナレビを振り返って渡部:両先生にはフィナレビに長年ご貢献いただき、それぞれ6号ずつ責任編集者を務めていただきましたが、どのようなお考えのもとで編集をされてきましたか。河合先生(以下、河合):その時々の重要な国際的な経済問題に焦点を当てて、純粋な理論的分析だけではなく、政策や行政に役立つような特集号にすることを念頭に編集してきました。財務省の所管する財政はほぼ全ての経済活動・金融活動や国際的な活動・取引に関わるので、非常に幅広い内容を対象とすることになります。その際、各時点で注目を浴びている国際的なトピックスに焦点を当て、なるべく最新の経済学的な枠組みを軸にして、かつ最新のデータを用いた分析を提供することを大事にしてきました。吉野先生(以下、吉野):現在議論されている問題について、理論的または実証的に分析することで、議論が本当に正しいのかどうか、違った見方ができるかどうか、示唆を与えることがフィナレビの役割であり、これを念頭に編集してきました。学会の学術誌等では、必ずしも現実の政策と結びついていない論文もありますが、官庁がフィナレビのような論文雑誌を刊行し、アカデミックな立場で問題をきちんと分析して発表することは非常に重要だと思います。渡部:両先生には編集審査委員として約20年間、論文の執筆では30年以上前からフィナレビに貢献いただいてきました。その間には、日本のバブル崩壊、ユーロ導入、アジア通貨危機、リーマンショック(世界金融危機)、直近ではコロナショックやウクライナ侵攻といった様々な出来事がありました。これらの重要な出来事との関係でフィナレビの役割をどのようにお考えでしょうか。河合:過去のフィナレビを眺めてみると、今言われたような世界的なショックがなぜ起きたのか、各国や日本にどのような影響を及ぼしたのか、ショックやその影響が将来どういった意義を持つのかということについて、しっかり分析してきたのだなと感じます。従来の分析の枠組みでは捉えきれないような新たなショックが起きている中で、世界中の経済学者たちがどう考えているのかを踏まえつつ、新しい分析枠組みを打ち出していくことが必要です。たとえばアジア通貨危機の場合には、それまでの画一的なIMF路線ではなく、地域金融協力や危機国の現実とオーナーシップを重視した路線が重要だという分析を行い、それが現在のメインストリームになっています。こういった研究をフィナレビでも続けていって頂ければいいと思います。吉野:フィナレビの役割の一つは、コロナショック等が起こった時に政策レビューをすることだと思います。財政史などのように長期的な視点でレビューするものはありますが、ショックが起こった時の政策効果等について、比較的タイムリーに分析を行うことは重要です。例えば、2023年3月の米シリコンバレーバンク破綻は、日本のような決済用預金の全額保護制度がアメリカにもあれば大混乱は防げたという話もあります。実はリーマンショック後の時期に私が預金保険機構の運営委員をしていた際、アメリカ側に説明していた提案でした。ただ、アメリカはモラルハザードの問題があるからと、預金保険の保護範囲を250万ドルに引き上げるに留まりました。ショック後の事後的対応がどうだったかレビューすることは重要だといえます。渡部:これまで責任編集をしていただいた特集号の中で特に印象に残っている号はありますでしょうか。河合:私が責任編集したものは全て思い入れがありますが、あえて言うならば直近の153号*1です。米ドルが依然として世界最大の基軸通貨の役割を保持する中
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