5.社会課題解決型ビジネスモデルの特徴(1)食と環境の川上分野に特化近年、人と動物の間で発生する感染症が増えています。人だけ、又は動物だけの健康を守るだけではもう対応できない状況です。人、動物、そして環境全体の健康を維持していかないといけません。しかし、薬をバンバン使ってしまうと、薬剤耐性の問題が生じる可能性があります。例えば生育に抗生物質をたっぷり使った家畜で耐性菌ができてしまった畜産品などばかり食べていると、人はいざ病気になったときに、抗生物質が効かないということになるのです。この薬剤耐性菌の話は厚労省も非常に注目しており、国の発表によれば、2050年には薬剤耐性菌による死亡者数が、現在のがんによる死亡者数を上回ると言われています。この薬剤耐性菌問題に弊社としてはぜひ取り組みたいと思っています。アメリカのマクドナルドのチキン製品では既に100%抗生物質不使用を謳っており、また中国でも法律で規制されました。その結果、卵やチキンなどの食品用の鶏の生育プロセスに抗生物質をできるだけ使わないという流れになってきています。日本でも、病気の治療目的を除く、成長を目的とした抗菌剤の使用をやめましょうという動きになっていますので、これからますますこの傾向が強まると考えられます。農業も同様の傾向にあります。農林水産省が提唱する『みどりの食料システム戦略』という戦略をご存じでしょうか。この戦略では、2050年までに化学農薬の使用量を50%削減するという目標が設定されています。私たちが提供しているバイオスティミュラントという代替品を使用することで、化学農薬の使用量を段階的に減らすことが可能で、私たちはこの問題の解決に貢献しています。このほか、皆さんに御愛飲いただいているビールから作った酵母細胞壁や、カルピスの乳酸菌といった副産物を利用して、小売業や外食産業のバックヤードで発生する食物残渣の堆肥化を促進するなど、循環型の畜産や農業を実現するサーキュラーエコノミーを、ビジネスとして展開しています。こうした社会課題解決型のビジネスモデルはお金になりにくい、ともっぱら世間では言われています。弊社は2012年にカルピスを買収して、2016年に完全統合する中で、カルピスがずっとやってきたアニマルニュートリション事業、機能性素材事業、健康食品通販事業の3つを切り出してアサヒカルピスウェルネスという一つの会社にしました。これは事業プロセスの川上と川下が比較的利益率が高いというスマイルカーブのセオリーを踏まえて、川上と川下にあるこの三つの事業を再編したものです。その後、健康食品通販事業については非常にうまくいって事業規模が大きくなりましたので、食品会社に再統合し、逆に、研究所がベンチャーで始めていた農業事業を新たに取り込みまして、2020年4月に弊社アサヒバイオサイクルに再編しました。そのココロとしましては川上に全部寄せたのです。川上に寄せることで事業利益率を引き上げたというのがポイントです。儲からないと長続きしない、長続きしないと全然サスティナビリティではないので、とにかく儲けるビジネスを作ろうと考えたのです。(2)「BtoB」⇒「BforB」弊社のビジネスは「BtoB」とは言わず、「BforB」と言っています。先ほどコンサルティングと営業を組み合わせるというお話をしましたが、私どもはお客様のROI(Return On Investment:投資利益率)を常に分析しています。お客様のROIを高める、それはすなわち自分たちの利益も上がるということで、製品の開発コーディネートから何から、お客様の財務諸表にどれだけヒットするものができるかというのをやっています。それが全て「BforB」、お客様のためになり、自分たちのためにもなるというモデルであり、それもまた一つの「自分ごと化」だと思っています。(3) 微生物による「食品資源の循環サイクル」ビジネスモデル先ほど循環型の食物残渣の堆肥化というお話をさせていただきましたが、外食産業、食品工場、自治体、 70 ファイナンス 2024 Mar.(3)One Health(4)サーキュラーエコノミー
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