マヅ 図5 リニューアル後の新仲見世商店街図6 仲見世商店街アーケードプロフィール大和総研主任研究員 鈴木 文彦仙台市出身、1993年七十七銀行入行。東北財務局上席専門調査員(2004-06年)出向等を経て2008年から大和総研。主著に「公民連携パークマネジメント:人を集め都市の価値を高める仕組み」(学芸出版社)ファイナンス 2024 Mar. 67のイシバシプラザ(イトーヨーカドー)が開店43年の幕を閉じた。沼津のまちおこしといえばアニメ作品とのコラボレーションが有名だ。平成28年(2016)に第1期、翌年に第2期が放映されたアニメ作品「ラブライブ!サンシャイン!!」(サンライズ制作)である。平成31年(2019)には劇場版が公開された。沼津駅からバスで30分、内浦湾を見下ろす長井崎の丘の上の高校アニメが示すまちづくり戦略の未来令和2年、沼津市は「中心市街地まちづくり戦略」を策定した。ここで車中心からヒト中心の魅力ある街への再生を掲げている。沼津駅高架化や周辺の区画整理を含む「沼津駅周辺総合整備事業」とセットで進められる。区画整理の一環で、街なかを通り抜ける車を迂回させるよう「駅まち環状」道路を設定。さらに十字に伸びる大通りの歩道を拡幅し、駅を中心とする「駅まち環状」の内側を歩行者優先の広場空間とする。再生のひな型も現れている。“人が自然と集まるような、心地よい空間に”を掲げ空間再編プロジェクトを立ち上げた新仲見世商店街は老朽化したアーケードを撤去した。空き店舗のリノベーションも進み、図5のように独特の雰囲気を持つ街になってきた。令和4年にはOオープンPENNヌUMAZUが始まった。公道にテラス席や屋台を設け、オープンスペースとしての活用を試す社会実験だ。今年は駅前の再開発ビル「イーラde」の前の歩道に面した車道の一部を囲い、テラス席を置いている。取り壊された富士急百貨店の跡地には、令和5年に低層の商業施設「PプラザONTANA」ができた。ヨーロッパの街並みを模した建物群は、人工的につくった商店街のような空間に仕上がっている。LAZAFフォンターナ「浦の星女学院」2年の高たか海み千ち歌かが校内にメンバーを募ってスクールアイドル部を立ち上げる。紆余曲折の上9人で結成した「Aアクアqours」が「ラブライブ!」の地区予選の突破から全国大会優勝を目指して活動するストーリーだ。むろん高校は架空だが校舎のモデルは実在し、作中には内浦湾や沼津市街の景色が登場する。本作のヒットで、映像と同じ場所を探索する「聖地巡礼」めあての来訪が増えた。放映から8年経っても客足絶えず、今でも沼津の街なかでAqoursメンバーのイラストを見ることができる。駅正面は大型パネルで装飾され、街にはラッピングバスが走り、商店街のアーケードにはタペストリーが吊り下がる(図6)。街なかに等身大パネルが立てられた店が散見されるが、スタンプラリーの協力店だ。令和元年、沼津市は昭和57年(1982)以来37年ぶりに転入超過となった。ららぽーと沼津の開店に伴う転入者が多そうだが、ラブライブ!サンシャイン!!への憧れが高じて移住を決めたケースもあるという。まちづくり戦略の1つに「まちなか居住」がある。戦前の一等地だった通横町の北東角は再開発されホテルとマンションが建った。Aqoursメンバーの1人がそこに住んでいる設定だ。アニメの中の仮想現実は沼津のまちづくり戦略の描く未来を先取りしているようだ。
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