(出所)IMF 「World Economic Outlook, April 2023」(出所)IMF 「World Economic Outlook, April 2023」(元/ドル)為替レートPPPバブル崩壊107.552.5019801984198819921996200020042008201220162020200020042008201220162020日本中国為替レートPPP4.おわりに人口比率をみると、1990年の日本は77.4%であるのに対し、2022年の中国は65.2%となっている。これらは、中国において都市と農村の格差が未だ大きいことを示しており、中国では、当時の日本と比べても、所得・賃金水準の差が大きく、いまだ成長に伸びしろがあるものと考えられる。次に貿易条件について確認したい。為替レートの動向を市場為替レート・PPPレートの二つの視点で確認すると、日本では、PPPレートよりも市場為替レートが増価傾向となっているのに対し、中国では、PPPレートよりも市場為替レートが減価傾向となっていることが分かる(図表8)。市場為替レートの増価は、国内における物価や賃金の水準を海外と比べて相対的に高くする効果を持つことになる。そのため、市場為替レートが増価傾向であった日本は、日本国内の物価・賃金水準が他国よりも割高であり、日本国内で製品の生産を行い、その製品の輸出を行う企業にとって、不利な状況が続いてきたと言える。一方で、中国では、中国国内の物価・賃金水準が他国と比べて割安であり、輸出企業にとって有利な状況となっている。また、輸入品に関しては、日本は通貨高によって安く輸入品を入手することができ、それがデフレの要因ともなってきたが、中国では、通貨安によって輸入品を安く入手しづらい状況にあると言える。このように、両国とも経常収支において貿易収支の黒字に支えられてきたところであるが、その貿易条件においては大きな違いがあったと考えることができる。【図表8】為替レートの動向(円/ドル)300200100019801984198819921996次の違いとしては、現在の中国は既に過去の金融危機から学習できる環境にあるという点である。日本では、バブル崩壊によって、金融機関のバランスシートが痛み、多額の不良債権が発生した。巨額の不良債権によって、1997年には、三洋証券や北海道拓殖銀行は破綻し、四大証券の一角とも言われた山一證券も自主廃業に追い込まれている。このような不良債権の存在は、自己資本の毀損を通じて、金融機関の経営の健全性を大きく脅かすことになった。その結果、金融機関はリスク許容力を大きく低下させざるを得ず、設備投資等への貸出に対して慎重な姿勢をとるようになるなど、間接金融の機能低下が生じることとなった。このような金融要因も日本の経済を低迷させた要因の一つだとの指摘もある。現在の中国政府は、日本のバブル崩壊後の対応やリーマンショックの対応などを踏まえ、過去の金融危機への教訓を自国の対応に生かすことが可能であると考えられる。また、日本は民主主義であるのに対し、中国は共産党による一党体制あるため、迅速な政策決定が可能であるという点も重要な相違点である。他方、中国のような一党体制では、市場経済メカニズムを通じた需給調整や価格調整が行われづらく、競争も働きづらいという指摘もある。また、足もとでは、IMFが指摘しているように、世界的に地政学的な友好国を投資先として選好する傾向が強まっており、一部の分野においては、既に中国向けの直接投資のシェアが減少している状況にある。このような地政学的リスクも将来の中国を考えるうえで、重要な視点であると考える。本稿の冒頭に、日本の景気後退の要因として、需要要因・供給面の構造要因・金融要因の3点を挙げた。足もとの中国では、厳しい行動制限をともなう「ゼロコロナ」政策が終了したにも関わらず、内需や投資などが低迷するなど需要面において弱い状況であり、物価上昇率も低い。また、供給面の構造要因においても、日本と同じように少子高齢化が進むことで、労働投入量の減少が見込まれる。他方で、貿易条件においては、日本と違い低成長・デフレになりづらい構造となっているほか、他国の金融危機からの学習効果や迅速な政策決定が可能である 62 ファイナンス 2024 Mar.
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