ファイナンス 2024年3月号 No.700
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(参考)市場金利の上昇に伴う時価の下落例えば、100ドルを、年利1%の3年間の定期預金に入れたものの、その後金利が上昇し、1年後、2年間の新規定期預金の年利が5%になったらどう思うだろうか。あと1年待って定期預金を始めれば、今後2年間5ドルづつもらえたのに、実際は1年前に定期預金に入れてしまっていて、1ドルづつしかもらえないので、損した、と考えるのではないか。これを国債の場合で考えてみよう。年利1%・満期3年の国債を額面100ドル購入した後に、市場の金利が上昇し、1年後に、年利5%、満期2年の国債が発行されたとする。定期預金の場合は、一般的には預け入れている資産を満期前に他人に売却することはできないが、国債の場合は市場での売却が可能である。とはいえ、同じ額面100ドルで、年利5%、満期2年の国債と、年利1%、満期2年(=低金利時代に満期3年で発行された国債の、1年経過後の残りの満期)の国債が同じ価格で売られていれば、当然投資家は年利5%の国債を買うだろう。つまり、年利1%の国債を金利5%の時代に売るには、年利の差で損する分(2年間4ドルづつ)は値下げをする必要がある。これが時価の下落である。対外債務返済などの外貨資金ニーズに大して外貨準備高が十分ではない場合は、対外支払いに支障が出る可能性がある。加えて、一定程度の外貨準備を維持している場合であっても、足元で大きく準備金が減少している場合、将来起こりうる外貨不足に対して政府が十分な対応能力を持っていないのではないかとの市場の憶測を呼び、それが借入れコストの上昇など悪影響を及ぼす可能性もある。そのため、外貨準備を運用する際は、資産の安全性及び流動性に十分留意する必要がある。世界銀行では、適切な外貨準備運用のために、どういった通貨・資産を保有し、またその配分はどうすべきか、価格変動やデフォルトなどのリスクの管理はどのように行うのか、資産運用のガバナンスはどのようにすべきか、といった、日々の運用に関する技術を外貨準備当局に教えている。以下では、そうした取り組みの中で私が具体的に経験した業務に加え、アメリカでの生活などについてもお話ししたい。 1 1 ミッション上述したように、世界銀行では、各顧客を訪問し(場合によってはバーチャルで)、彼らの知りたい運用技術を最大1週間程度かけてつきっきりで教えるサービスをミッションと呼んでいる。筆者は、1年目はコロナのため物理的な出張はなかったが、2年目から対面のミッションに参加する機会を得た。ただ、他の同僚は資産運用の知識・経験も、英語力も、自分より上。となると、彼らと同様のパフォーマンスを発揮するためには準備を抜かりなく行う必要がある。これまで蓄えてきた基礎知識に加え、想定される質問に答えられるよう、時間をかけて情報収集する。プレゼンテーションで自分が担当する部分については、何度も練習をしてできる限りスムーズに説明できるようにする。ミッション前はとても緊張するが、こうした練習の積み重ねで多少の緊張は和らげることができる。。。はずなのだが、ミッションは顧客の要望にできるだけ沿うことが重要。ミッションの最中でも、顧客からこのトピックはもう少し深堀したいと言われれば、予定していたセッションをキャンセルしてでも新たなプレゼンテーションを追加することになる。この対応が大変で、準備も一からやり直しとなるケースもある。ただでさえ出張先では時差のためあまり眠れない中で、さらに睡眠を削って資料を準備するため、ミッションの終盤はまさに満身創痍。ある日、そんな状態で朝に宿泊先のホテルのレストランで同じミッションに参加している同僚と朝食をとっていたところ、彼は昨晩Netflixを見ていたと言っていたんだが。。。私よりも重い担当を昨日新たに頼まれて、今日プレゼンテーションをしないといけないのに、何その余裕!!!でも実際にプレゼンテーションをさせてみると、準備に時間をかけた私より彼の方がはるかにうまい。悔しい。。。ただ、ベテランの同僚は、あらゆるトピックで何十回とプレゼンテーションをしているので、資料も過去のものを多少現時点の情報に修正するくらいで、大して準備に時間は必要ないのだろう。うらやましい限りである。 54 ファイナンス 2024 Mar.

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