43210(注)自家運用ファンドでの保有額(出所)GPIF図表5 GPIFによる物価連動国債保有割合の推移(兆円)GPIF保有額2013201420152016201720182019202020212022おり、物価上昇率と名目賃金上昇率の関係次第で、物価連動国債によるヘッジ効果が変わりうる点には注意が必要です。国内債券に占める比率(右軸)16%12%8%4%0%*12) GPIFは、厚生労働大臣が定めた中期目標において、物価上昇率ではなく名目賃金上昇率に対する運用目標(名目賃金上昇率+1.7%)が与えられて*13) 第108回運用委員会議事録では「有識者会議の中で、物国を運用対象とすべきだというお話があった後に、当法人のほうで、国内債券の中でのシャープレシオの最大化を目的として、国内債券の2割を保有するということで進めております。今、基本ポートフォリオは35%でございますので、その2割ということですので、7%を目指すということでございます」(p.13)としています。*14) 第74回運用委員会議事録によれば、GPIFの三谷理事長(当時)は「流通市場は現在ほとんどないような状況です。流通市場で購入しようとすると、たまたま出てきたものが、いい値段であったら購入するというような形にしかならない。私どもの希望としては、財務省に対し、一旦入札で決まったその条件で、入札とは別枠で一定額を購入させてもらえないかと、シ団方式的なものを打診したのですが、財務省は、すぐにはそれに踏み切れないということなので、入札の都度、入札参加者を通じて購入するということしかないわけです」(p.12)、「基本的には満期保有を念頭に置いています」(p.12)と指摘しています。4.2 日銀による物価連動国債の購入参考にしていることから、GPIFの運用スタンスを理解しておくことは有益です。そもそも物価連動国債は、インフレヘッジという観点から、退職後の資産形成において望ましいという意見が少なくありません。GPIFはその性質上、退職に備えた年金を運用する主体であることから、GPIFが物価連動国債に対して積極的に投資することには一定の合理性があるともいえます*12。アング(2016)は、「TIPSは、個人投資家にとって理想的な退職貯蓄のメカニズムを有しているようである。投資マネジメントと年金専門家であるボストン大学教授ツヴィ・ボディは、個人投資家は引退後のポートフォリオでTIPSを100%近く保有すべきであると主張している」(p.432)と指摘しています。図表5がGPIFにおける物価連動国債の保有割合ですが、2014年度から物価連動国債の投資を開始し、当初、増加傾向にありました。GPIFが物価連動国債の運用を始めた当時は、将来的に円債ポートフォリオのうち、物価連動国債で20%程度保有するという議論もありました*13。もっとも、図表5からわかる通り、GPIFによる物価連動国債の購入が顕著に増加したのは2016年までであり、それ以降はほぼ横ばいで推移し、コロナ禍以降、その保有割合はむしろ減少傾向にあります。その背景には、物価連動国債の流動性が低下したことや、BEIが低下基調にあった(=名目債対比のアンダーパフォーム)ことなどに加え、物価連動国債の発行そのものが増加しなかったこともあります(コロナ禍における物価連動国債市場については後述します)。GPIFが物価連動国債を購入するときの問題の一つは、その規模が大きいため、GPIFの購入がマーケットにインパクトを与えてしまう可能性があることです。そもそも物価連動国債に流動性がないとされているため、この問題はより深刻になりえます。そのため、GPIFが物価連動国債を購入するにあたっては、プライス・インパクトを軽減するなどの観点で、セカンダリー市場でトレーディングするのではなく、入札で購入して満期まで保有する傾向があると解釈されています(GPIFの議事録によれば、低流動性を考慮し、シ団方式的な方法を通じて購入できるよう財務省とかつて交渉した経緯もあります)*14。なお、一般的な円債ファンドとの関係でいえば、服部(2023)で記載したとおり、野村BPI総合指数には物価連動国債が含まれないため、インデックス対比での保有が必要ないという特徴があります。したがって、円債ファンドの場合、BEIが上昇(低下)すると見込めば、名目債対比で組み入れる(減少させる)という投資行動が予測されます。その一方で、これまで説明してきた通り、日本の物価連動国債は流動性が低いとされており、投資家からすれば入札がなければまとまった量を購入することができないなどの特徴も重要です。GPIF以外の物価連動国債の保有者として、日銀のプレゼンスも看過できません。日銀は定期的に国債買い入れオペを実施していますが、物価連動国債についても、他の国債と同様、いわゆる「オペ紙」で購入量が示されています(「オペ紙」については服部(2023)の9章を参照してください)。図表6が「オペ紙」を示したものであり、物価連動国債の欄も確認できます。図表7は、日銀による物価連動国債の購入額の推移 44 ファイナンス 2024 Mar.
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