図表4 物価連動国債の売買回転率物価連動国債入札*10) 売買データを流動性指標として解釈することへの批判としては、例えば、流動性危機とされる2008年の金融危機時に取引量が増加していたことなどが指摘されます。もし売買量が大きいことが流動性が高いことを意味するのであれば、金融危機時に流動性が改善したということになりかねません。*11) 2013年11月の公的・準公的資金の運用・リスク管理等の高度化等に関する有識者会議において、「今後、我が国経済がデフレを脱却することを見据えて、金利上昇に備えたリスク管理や資産評価の在り方について十分に検討し、速やかに対応策を講じるべきである。こうした観点から、例えば、最近発行が再開された物価連動国債を運用対象とすることについても検討すべきものと考えられる。」(p.8)との問題提起がなされたことを踏まえ、運用対象の多様化の観点から、2014年度に国内債券のアクティブ・ファンドとして運用を開始しました。パッシブ・ファンドではなく、アクティブ・ファンドであるがゆえ、ベンチマークに対してオーバー・ウェイト(アンダー・ウェイト)になりえる点に注意してください(物価連動国債を買わないという選択肢もある点に注意してください)。ファイナンス 2024 Mar. 434.その他の話題4.1 GPIFによる物価連動国債の投資BOX 1 物価連動国債の略称物価連動国債について実務家は様々な略称を用います。日本語では「物国」(ぶっこく)や「物連」(ぶつれん)、「物価」という表現が用いられますが、Treasury In■ation-Protected Securitiesの略称であるTIPS(ティップス)という表現も普及しています。英語では、In■ation Linked Bondの略称としてILBsと記載されることや、Linkという表現から、Linker(リンカー)やLinkers(リンカーズ)と呼ばれることもあります。Bloombergの表記を用いて、JGBIやJBIという略称が用いられることもあります。ス・インパクトを測る指標(流動性指標)については、様々な指標が提案されています。以下では、我が国の物価連動国債の流動性を把握するため、物価連動国債の売買データを用いて議論を進めます。流動性を測るうえで売買データを用いることに賛否両論ありますが*10、物価連動国債の場合、取得できるデータに制約があることに加え、売買データをみることでそもそも売買そのものがほとんどなされていないことが確認できます。図表4が我が国における物価連動国債の売買回転率をみたものですが、米国債に比べて売買回転率が非常に小さいことがわかります。図表4をみると、2008年の金融危機により流動性が低下したことが確認できますが、債務管理リポートでは、「物価連動債は海外ファンド勢の保有が多いと考えられており、リーマン・ブラザーズの破綻を機にリスク削減に伴う売りが集中して買い手不在となり、価格が額面を割って急落し、BEIのマイナス幅が急速に拡大したと推察されています」(p.10)と指摘しています。同リポートでは、さらに「これを受けた対策として、同年10月8日予定の物価連動債入札は、同年9月30日に減額(5,000億円→3,000億円)を発表し、更に同年10月7日には同入札の取り止めを発表しました」(p.10)としています。再び図表4をみると、新型物価連動国債についても2013年や2014年という再開当初は売買が活発であるものの、その後、売買が低迷していることが分かります。物価連動国債の流動性は、2016年くらいからインフレ低下の懸念から売買が低下していき、2020年のコロナショックで本格的に流動性が枯渇したとされています。市場参加者からは「現状は国債市場の流動性の著しい低下や海外投資家のリスク許容度の低下等、物価連動債が発行中止となったリーマンショック時と市場環境が酷似しており、市場環境が回復するまで、発行減額や買入増額等の需給緩和策がとられることが望ましい」という指摘もなされています。コロナ禍における対応については後述します。物価連動国債の市場でしばしば話題になるのは、運用規模が約200兆円を誇るGPIFの存在です(GPIFによる国債運用の概要は、服部(2023)の6章を参照してください)。GPIFによる物価連動国債の購入が、新型物価連動国債の再開とほぼ同時に始まったこともあり*11、GPIFの動きは、市場参加者で大きな注目を受けてきました。他の年金基金もGPIFの運用をuv
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