ファイナンス 2024年3月号 No.700
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(出所)財務省図表1 連動係数の時間を通じた動き*1) 本稿の作成にあたって、様々な方に有益な助言や示唆をいただきました。本稿の意見に係る部分は筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織の見解を表すものではありません。本稿の記述における誤りは全て筆者によるものです。また本稿は、本稿で紹介する論文の正確性について何ら保証するものではありません。*2) ここでは安達・平木(2021)に則れば、ターム・プレミアム較差と書くべきところですが、アング(2016)では「ブレーク・イーブン・インフレ率(BEI)=期待インフレ率+リスク・プレミアム」とするなど、「プレミアム」と記載することも多いことから、ここではシンプルに「流動性プレミアム」、「ターム・プレミアム」としています。*3) アング(2016)では物価連動国債のリスク・プレミアム(ターム・プレミアム)に関して、「仮にリスク・プレミアムが一定であれば、BEIは、期待インフレと1対1で変動する。しかし、リスク・プレミアムが時間と共に変化するので、BEIは将来の期待インフレの指標として直接には使えない」(p.440)と注意を促しています。*4) 下記をご参照ください。 https://sites.google.com/site/hattori0819/東京大学 公共政策大学院 服部 孝洋*12.フロア・オプション2.1  物価連動国債の再発行と元本保証(フロア)BEI= 期待インフレ率+フロア・プレミアム 1.はじめに本稿は「物価連動国債入門―基礎編―」(服部, 2024a)および「ブレーク・イーブン・インフレ率入門」(服部, 2024b)を前提に、我が国における物価連動国債に関する発展的な内容について解説することを目的としています。服部(2024b)で説明した通り、ブレーク・イーブン・インフレ率(BEI)は下記のように分解できます。-流動性プレミアム+ターム・プレミアム*2(1)本稿では、この中でもフロア・プレミアムと流動性プレミアムの説明を行います(ターム・プレミアムについては、紙面の関係上、筆者が記載した「日本国債入門」(服部, 2023)の10章をご参照ください*3)。本稿では、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)による物価連動国債への投資に加え、日銀による国債買入、コロナ禍における経験、物価連動国債の会計処理なども取り上げます。本稿では服部(2024a, b)を前提としているため、同論文で説明した概念は説明なく用いられる点に注意してください。また、本稿は日本国債に関する基礎的な知識も前提にしているため、日本国債の商品性の概要は、「日本国債入門」(服部, 2023)をご参照ください。筆者が記載してきた債券入門シリーズは、筆者のウェブサイトにまとめて掲載してあります*4。これまで強調してきたとおり、新型物価連動国債には元本保証(フロア)が付されている点が重要な特徴です。物価連動国債は、歴史的には2004年に発行が開始されましたが、2008年の金融危機により発行が停止されました。その後2013年に発行が再開された際に、元本保証が付されました。物価連動国債の想定元本はインフレに依存しますが、フロアが付されることで、仮にデフレが進んだとしても、最低でも100円で償還されるという商品性になっています。服部(2024b)で説明した通り、物価連動国債の想定元本は「100×連動係数」で算出されますが(連動係数の定義は同論文を参照してください)、図表1に記載されているとおり、満期時点において連動係数が1より小さい場合、連動係数が1になる商品性になっています。これは満期において連動係数が1以下である場合、1になるというオプションが物価連動国債に付されていることを意味します(もっ 40 ファイナンス 2024 Mar.物価連動国債入札-発展編(フロア・オプション、流動性等)-

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