(4)その他の論点(3)セキュリティの確保と利用者情報の取扱いCBDCは利用者にとって決済手段として常時機能する必要がある。このため、サイバー攻撃への耐性の確保や不正利用の防止、個人情報の適切な管理・保護の観点から、万全のサイバーセキュリティ対策・情報セキュリティ対策を講じることが必要である。システム障害や事故等が発生しないよう、事前のセキュリティ対策に万全を期すことはもちろん、そうした事態が生じた場合の事後対応にも万全を期す必要がある。め、銀行預金から急激ないし継続的な資金シフトが生じた場合、我が国の金融システム・経済に悪影響を及ぼす可能性がある。こうした悪影響を抑止するセーフガード措置として、資金シフトを直接制限することができる保有額制限を主軸として検討していくべきであるが、その際、複数口座を開設した場合の対応や、保有上限額を超えた受払を行う場合の対応(事前に登録した銀行口座等に自動的に振り替え・チャージする機能)等も併せて検討していく必要がある。最後に、その他の決済手段(電子マネー・QRコード決済等)との共存・役割分担について、店舗によって利用可能な決済手段が異なることや、異なる決済手段間での送金ができないことなど、ネットワーク効果が十分に発揮されないおそれがある中、CBDCが異なる決済手段間の交換を担保することにより、他の決済手段を「支える」といった共通インフラとしての役割を果たすことで、各決済手段間の競争促進とネットワーク効果の更なる発揮につながることが考えられる。一方、CBDCの導入は民間事業者のビジネスモデルに影響を及ぼす可能性があることも踏まえ、関係当局・関係事業者の間で十分な議論を積み上げていく必要がある。利用者情報・取引情報の取扱いについては、個人情報保護の観点からは、プライバシーの確保が前提であり、「プライバシー・バイ・デザイン」の考え方に沿って検討していくことが重要である。その上で、利用者情報・取引情報の利活用を通じた追加サービスの提供など利便性の向上や、マネロン対策をはじめとする公共政策上の要請への対応とのバランスを図っていくことが必要である。こうした観点から、まず仲介機関は、個人情報保護法など関係法令を踏まえ適切に情報を取り扱うことが基本となる。次に、日本銀行は、例えば個別の利用者情報・取引情報を可能な限り取得・保有することがないよう設計するなど、その取り扱う範囲を必要最小限とすることが基本である。また、政府は、現在の仕組みと同様、マネロン対策をはじめ公共政策上の目的に基づき、必要に応じて情報提供を受けることが基本であり、国民のプライバシーに対する懸念を払拭する観点から、その目的や対象を事前に明確にしておく必要がある。不正利用対策については、既存の決済手段と同様、本人確認等を行う必要がある。その上で、プライバシーの確保に配慮する観点から、例えば、取引額の上限の多寡に応じて利用者の提供するべき情報の範囲を設定することも選択肢として考えられるが、今後の国際的な議論の動向も見ながら検討を深めていく必要がある。また、利用者の範囲は当面国内居住者としつつ、海外旅行客など非居住者は今後の検討課題とすることも考えられる。法令面の対応の必要性については、通貨制度における位置付けとして、決済手段として広く受け入れられるよう、法貨とすることが基本である。一方、CBDCの受取を拒む店舗が現れる可能性も排除できないため、一般受容性を高める観点から利用環境の整備等について検討していく必要がある。また、通貨制度における位置付け以外にも、仲介機関に対する規制のあり方や、民事法上・刑事法上の整理など、現行の法制度に幅広く影響することが想定されることから、関係省庁と連携して法令面の検討を進めていく必要がある。コスト負担のあり方については、CBDCを導入するかどうかの判断に当たっては、システム開発・運用など導入・運営に要するコストの全体像をあらかじめ明らかにする必要があり、その中で、コストの規模感にとどまらず、コスト負担のあり方についても整理していく必要がある。CBDCの利用によって受益する主体は何か、決済に関する公平な競争環境をどのように担保するかなど、幅広い観点から検討を進めていくことが必要である。クロスボーダー決済については、迅速・低コスト・ 38 ファイナンス 2024 Mar.
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