ファイナンス 2024年3月号 No.700
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中央銀行デジタル通貨(CBDC)の制度設計の大枠の整理に向けてファイナンス 2024 Mar. 37(1)日本銀行と仲介機関の役割分担(2)CBDCと他の決済手段の役割分担2.有識者会議の取りまとめの概要本有識者会議で検討した我が国のCBDCは、スマートフォンアプリやカードを用いることにより決済を行うことが想定されているデジタル通貨で、現金と同様、例えば日々の買い物など、日常取引に幅広く使うことができるものである。民間デジタル決済手段との違いとして、(1)誰でも、いつでも、どこでも使うことができる決済手段として制度化されること、(2)利用者にとって信用リスクなく安全に利用できるとともに、基本的に即時に決済が完了して受け取ることができること、が挙げられる。CBDCの制度設計の大枠の整理に当たっては、主要国・地域における調査研究・検討の動向を参考としつつも、我が国の実情や利用者のニーズに合ったものとなるよう、多角的に検討を行っていくことが重要である。その際、デジタル経済にふさわしい通貨として、デジタルならではの利便性の向上や各種の民間決済手段との共存・役割分担、クロスボーダー決済の課題への対応などを考えていくほか、導入する場合にはプライバシー確保や現金の利用に対する国民の懸念にもしっかり応えていく必要がある。こうした観点から、(1)日本銀行と仲介機関の役割分担(利用者の多様なニーズを踏まえつつ、いかに利便性の高い決済手段として提供していくか)、(2)CBDCと他の決済手段の役割分担(決済システム全体としての安定性・効率性を図っていくため、どのように共存・役割分担を行うか)、(3)セキュリティの確保と利用者情報の取扱い(いかに常時機能させるとともに、プライバシーに対する国民の懸念に応えていくか)、といった主要論点に関する基本的な考え方や考えられる選択肢等について、以下のとおり整理を行った。CBDCについて、現金同様、民間部門である仲介機関が日本銀行と利用者の間に立って授受を仲立ちするという「二層構造」(間接型の発行形態)とすることが適当である。仲介機関が利用者情報・取引情報を適切に利活用することを通じて、利便性の向上と仲介機関の収益機会の確保が図られる観点から望ましいと考えられる。日本銀行の役割としては、CBDCの記録・確認を正確に行うための仕組み(台帳等)の管理を行うことが適当であり、民間決済サービスの高度化を図るといった「触媒」としての役割も求められうる。一方、仲介機関の役割としては、利用者に基礎的な決済手段を提供する観点から、日本銀行との間において発行・還収に関する業務を行うとともに、利用者との間においては、例えば取引の開廃手続・顧客管理、スマートフォンアプリ・カードなどの提供、利用者からの払出・移転・受入依頼への対応といった流通に関する業務を担うことを想定している。こうした業務に加えて、仲介機関は、デジタルならではの利便性を向上させるため、例えば家計簿サービスや条件付き決済サービスといった追加サービスを担うことも考えられる。ただし、民間の創意工夫を促す観点から、公正な競争条件を確保しつつ、その他の民間事業者も参入できる方向で検討することが重要である。我が国においては各種の決済手段があり、利用者はそれぞれの決済手段の特徴を踏まえた上で使い分けを行っていると考えられる。こうした中、各種の決済手段が、その機能や役割を適切に発揮し、共存することを通じて、利用者の選択肢の確保や利便性の向上、決済システム全体としての安定性・効率性の確保も図ることが重要である。まず、現金との共存・役割分担について、現金はユニバーサルアクセス(誰でも利用できる)・強靱性(いつでも、どこでも利用できる)・匿名性という特性を持っており、仮にCBDCを導入する場合にも引き続き現金の需要が一定程度残ることが考えられる。こうした観点から、CBDCは現金を代替するものではなく、相互に補完するものと考えることが基本である。その上で、CBDCの具体的な制度設計として、オフライン機能(強靱性)と匿名性については、現金が引き続き供給されることも踏まえ、その必要性とリスクの両面から検討を進めていくことが適当である。次に、銀行預金との共存・役割分担について、銀行預金は利用者にとって価値保蔵手段・決済手段としての重要な役割を担うとともに、信用創造を通じて経済に必要なマネーを供給する機能を担っている。このた

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