ファイナンス 2024年3月号 No.700
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第16回OECD税務長官会議ファイナンス 2024 Mar. 31(1) 税務行政のデジタルトランスフォーメーション(DX)(2)2つの柱の解決策の実施と税の安定性(3)キャパシティビルディング(4)徴収共助を含む徴収業務3. 第16回FTA本会合の概要以上の背景を踏まえ、今回のFTA本会合においては、上記三つの議題を中心に、以下のような議論が行われた。最も重要な分野に効果的にリソースを投入できるよう、前回会合において、戦略的枠組み作成のためのワーキンググループが設立されたが、そのワーキンググループより、新たな5つのプロジェクト案について発表がなされた。プロジェクトAでは、当局間で安全かつ自動的に、適時の情報交換を可能にする仕組みを模索する。プロジェクトBでは、税務当局と国際的なプラットフォーム・ギグエコノミー間の情報交換を発展する方法や、リアルタイムで電子的な顧客情報を共有する可能性を検討する。プロジェクトCでは、各国の税務行政3.0実現のための戦略について、実現へのロードマップ、順序を検討する。プロジェクトDでは、税務当局におけるAI活用の方法を探る。最後に、プロジェクトEでは、デジタル・アイデンティティについて扱い、納税者の居住性に関する情報を把握するための方法を検討する。これらの新たなプロジェクト案について、プロジェクト間の重複やバランスについて問題視する声も上がったが、評価する声が多数派であった。また、ビジネス界からは、税務当局側と民間側の協力が重要であるとの発言もなされた。2つの柱の解決策の実施にあたり、税務当局としての課題を議論した。特に、より議論の進んでいる第2の柱の執行に関して税務行政が直面する課題やルールの導入に向けた準備状況について共有・意見交換が行われた。第2の柱の導入における主な課題としては、税務当局職員の能力向上及び事務負担を軽減するための技術ツールのアップデート、企業からの理解を得ることが挙げられた。第2の柱は単に国内の問題ではなく、実施においては他国の制度を理解する必要があり、各国の会計基準や税制等様々な知識が求められる。このための人材育成が各国において課題となっている。これまで以上に国際協調や途上国支援が重要となる。そのためにも、各国の取組を共有してお互いから学ぶ場としてFTAを活用することの重要性が確認された。本件に関しては、企業側出席者より、2つの柱政策はあくまで納税者のためのものであり、税務当局はその政策が企業に与える影響について理解しなければならない旨の発言があった。アカデミック側出席者からも、2つの柱の目的は、多国籍企業のより活発な活動を促進することであり、政策決定の折にはその政策が企業に与える影響を想像することが重要といった発言があった。税務当局のキャパシティビルディングにおいては、事務局より、第2の柱の実施に向け、知識の交換及び直接的な支援のための新しい知識共有ネットワークの立ち上げを行ったことや税務当局間のみならず地域の税務組織・国際機関・非FTAメンバー国間とも継続的な協力を行っている旨の発言があった。出席者からも、途上国がグローバルスタンダードルールに参加するためのコストが非常に高く、キャパシティビルディングが肝要であること、ニーズを把握した上での支援が重要であることについて発言がなされた。またIMFからは、全てのニーズを実現することは出来ないものの、FTAのような場で知見を共有することは重要であること、また、もう少し非公式な、バイラテラルの協力も重要である旨の指摘があった。事務局より、世界全体における滞納額が2021年から増加傾向にあり、その増加率も年々高まっている旨の説明があった。ギリシャからは、データの分析や納税者のプロファイリングを活用した徴収活動に力を入れている旨、発言がなされた。条約締結国間で租税債権の徴収につき相互に協力し合う制度である「徴収共助」について、住澤長官と中村審議官が、日本の経験を踏まえた当該ネットワーク拡充を唱えるプレゼンを行い、FTAメンバー国の長官らと徴収共助の重要性を確認し合った。議場からは、徴収共助により実際に徴収が成功したことに言及

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