ファイナンス 2024年2月号 No.699
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ファイナンス 2024 Feb. 87 PRI Open Campus ~財務総研の研究・交流活動紹介~ 28[聞き手]財務総合政策研究所総務研究部研究企画係長  升井 翼2013年北陸財務局に入局。2016年に財務総合政策研究所へ出向し、2023年7月より現職。在職中の2023年に横浜市立大学大学院にて修士号(データサイエンス)を取得。財務総合政策研究所総務研究部研究員  野村 華2019年に日本通運株式会社入社。国際輸送(主に海上)の営業を担当後、2022年7月より現職。束性がありません。とはいえ、個別の法的論点にどのような法規則が適用され、どのように解釈されたかを参照し、自己の主張に説得力を持たせるために先例を引用することが必要とされます。投資仲裁の分野では、先例の数が非常に多く、しかもその判断の内容に一貫性が欠けるということについて根本的な批判があります。事案によって解釈が異なり、一貫性がないことに対する批判は、ここ10年ほどの間で特に投げかけられている批判だと思います。例えば、「公正衡平待遇」はほとんどの投資条約やFTA/EPAの投資章に規定があるものの、その解釈に違いがみられるのが現状です。また、投資仲裁に携わる仲裁人のバックグラウンドも多様であり、案件によって仲裁人の専門が全く異なるため、解釈に違いが生ずるという問題もあると聞いています。本特集号の各論文は、前号以上に本当に今の国際社会を反映しているという印象を受けており、個人的に本当に面白いと思っています。この機会をくださった財務総合政策研究所の関係の皆様と寄稿してくださった先生方にも感謝しています。フィナンシャル・レビュー掲載の全論文は、財務総研ホームページから閲覧・ダウンロードいただけます。https://www.mof.go.jp/pri/publication/financial_review/index.htm本特集号では法学と経済学に強く関連するテーマを扱っています。国際法がご専門の河野先生は、国際法と、関連する他の学問分野との関係性をどのように捉えられているのでしょうか。私は大学では国際関係論という学科で勉強をしました。その際に学んだことは、一つの伝統的なディシプリン(discipline:学問領域)を基盤としつつも、それだけで今の国際関係をみるだけでは十分ではなく、ディシプリンの相互作用やお互いの関係を重視しながら国際関係を学ぶというアプローチでした。国際関係論が掲げているのは、学際的なアプローチで国際関係を見るということであり、一つの問題が様々な切り口や側面を持っているため、全体との関わりにも目配りをすることが極めて重要です。現代の国際問題に、政治だけ、あるいは経済学だけで対応することは不可能であり、国際的な制度を構築する際にもそれぞれの分野から見た考慮が求められ、実際に制度が動き始めた後は、それぞれの専門家の視点から見て、制度が本当に実効的に機能しているのかどうかを検証する必要があります。このように異なるディシプリンがあることを前提に相互理解をしながら、それぞれの専門を尊重する必要があるということを大学の学部時代に学びました。例えば国際法の専門家として、国際経済の専門家、或いは経済学の専門家の質問に答える場合、相手に理解されるような説明が必要とされ、それによって自らのディシプリンへの理解も深まることになります。少なくとも自分の専門分野をきちんと理解していることが求められると思っています。自分の基盤である専門分野の視点が全てだと考えずに、他に違うアプローチがあることを理解し、専門ではないから必ずしもすべて分かるわけではないにしても、他の専門分野を理解しようと心がけることも必要だと思います。本特集号の論文を読ませていただいて、法学という学問は判例を勉強したうえで何らかの解釈を与え、たくさん判例を積み重ねてそれが確立していくという体系になっているという印象を受けました。英米法では先例に拘束性があるのですが、国際法の紛争解決手段ではその判断に基本的に先例としての拘

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