ファイナンス 2024年2月号 No.699
90/104

て、産業のどの部分を強化すべきか、FTA/EPAのどのような点を活用するのか、さらにWTO体制をどのように活用するのかという視点から、個人の経済活動に関する政策を検討する必要があります。さらに申せば、国家としての戦略を検討する一方で、「人」の技術や資金、能力を国際的な全体のメカニズムの中で、日本の産業のどの部分に位置付け、活用するのかを考えるべきだと思います。そして、「人」の技術や資金、能力が国際的に流通することが日本の社会にとってどのような意味を持つのかも意識されると良いと思います。これから先の日本の成長を考えるときは、日本の国内だけに軸足を置くのではなくて、国際的な文脈で日本の産業の位置付けを考えるべきでしょう。ただし、阿部論文にもあるように、そこに国家としての枠組みを揺るがすような自由化というのがあってはならないでしょうし、国にとっての絶対に守らなければいけない利益も考えつつ、「人」の経済活動の自由化の意味を考えないといけない時代だろうと思います。究分野としての面白さについてお聞かせください。私が国際法に出会ったのは大学に入った後です。大学入学後、国際政治学のような社会科学系の科目を履修して、社会科学系の学問は、人の在り様や、社会の在り様を見ることができ、特に『動いている社会を見る目』を与えてくれると感じたことがきっかけでした。専門課程への進学後、国際法のほか国際経済、国際政治なども履修しましたが、その中でも国際法は条約の規則や、場合によっては慣習法の規則をもとにして国際問題を考える分野であり、モデルや理論枠組みを考えるという方向性が強い経済学・政治学と比較して、規則を基盤にして物事を考える手法、その中でも国家間の紛争解決のための理論枠組み・理論構成に何よりも興味を抱きました。具体的には、第二次世界大戦前までは国際紛争の解決方法として戦争という手法が容認されていたのに対し、国連によって武力による威嚇及び武力の行使の禁止原則が導入されて以降、武力によらない国際紛争の解決手段がより重要になりました。例えば国際裁判という紛争解決手段の基盤は、国際社会においていかに実力行使による紛争解決を回避するかというところに主眼があります。多様な国際裁判制度や他の紛争の平和的解決手段の実効性を考えることが面白いと思いました。そして、国が国を相手にして、相手の国際法違反を主張して責任を問う国家責任という理論や、国際紛争の平和的解決手段の一つとしての国際裁判が、何より面白いと思うようになり、大学院に行くことにしました。大学院に進学してすぐの時期は、ちょうどリビアのカダフィ政権が外国人投資家の石油開発関係の投資財産を国有化するケースの仲裁判断が出されるなど、国家が外国人投資家の財産権を侵害したときの紛争解決手続の学術的な論点が大きく取り上げられていた時代でした。それらの事例によって外国人投資家対投資受入国の紛争についても国際的な仲裁が可能なのだということを知り、すごく面白いと思って、これをテーマに修士論文を執筆しました。当時は投資仲裁の案件は数えるほどしかなかったのですが、その後、外国人投資家対投資受入国の仲裁の事例が飛躍的に増え、隔世の感があるとずっと感じていたので、今回の特集号においてもう一度投資仲裁に取り組んでみたいと思いました。大学で職をいただいた後1996年から1年間、パリに滞在し、国際司法裁判所の様々な案件に触れる機会を得ることができ、国家間の裁判手続の多様性を改めて認識するようになりました。国際社会における裁判手続の発展においては、判断の執行の問題もさることながら、いかに裁判を使いやすくするかということが課題になっています。ある意味で、WTOの紛争解決手続はこれを究極的に強化した制度だと思います。投資仲裁よりも国家間の紛争解決制度に研究の軸足を移した背景には、小国が大国を訴えることを可能にしている国家間の紛争解決手続の面白さに気付いたからです。このため、しばらく投資仲裁よりも司法裁判と仲裁を含めた国家間の裁判制度の研究を続けてきました。したがって、必ずしもずっと投資紛争の研究をしてきたわけではありません。現在は国家間の裁判だけでも事例が非常に多いので、それらを追うだけでもかなり大変ですが、同時に投資仲裁の発展を注視しながら日々研究をしています。5.河野先生ご自身へのご質問河野先生が国際法を研究され始めたきっかけや、研 86 ファイナンス 2024 Feb.

元のページ  ../index.html#90

このブックを見る