ファイナンス 2024年2月号 No.699
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ファイナンス 2024 Feb. 85 PRI Open Campus ~財務総研の研究・交流活動紹介~ 28ば飯野論文や加藤論文、阿部論文のテーマはとりわけそういう専門的な知見が必要な分野だと思われますが、それぞれの専門分野に特化した交渉が行われる中でも、今の国際社会の共通の土壌、あるいはある種の共通の問題点のようなものが底流にあるとしみじみ感じました。底流にあるすべてに共通するような問題が国際社会に存在していて、どの国際問題でもどこかで共通の問題に結びつくと思いますので、その点を少し知っていただく機会になれば良いと感じた次第です。一般の方に向けては、国家間で条約を締結するとか自由貿易体制とかいうと、日常生活とは関係がないという印象もあるかと思うのですが、それぞれの分野の政策というのは、例えば関税のように日常生活で買うモノの値段に密接に関わるものです。また、デジタル貿易もそうですけれども、ネット上でのやりとりやネット配信の情報等がどれだけ国際性を持っているのかをあまり意識していないのではないでしょうか。そのような日常生活の何気ないことが世界経済とどのような形で関わるのかを考えていただければと思います。さらに、感染症対策の分野ではそれぞれの方がコロナ禍で普段とは違う経験をされたと思います。そうした感染症に対して制度面でどのような対応をしようとしているのか、また政策として対応する時にどのような論点があるのかということを分かっていただければ良いと思います。地球環境問題や労働問題も同様で、日常の生活に知らず知らずの影響が生じています。こうした様々な国際性を持った問題に対応するために条約体制が構築されています。しかも、もはや条約だから国が履行するという時代ではなく、条約によって作られた制度をいかにうまく動かすかがそれぞれの人の問題でもあると思います。特に太田代・秋山論文では、そのような条約体制、あるいは国際法がもたらしている規則の履行のために、関係者も含めた対応が必要となっていることが示されており、そのような状況を少しでも一般の皆様にお分かりいただけると嬉しいです。私は普遍的な制度・規則がより発展していくことが最も望ましいとは思います。FTA/EPAの発展が普遍的な制度の発展にもつながると良いとも思います。今のFTA/EPAの急速な発展を見ていますと、そこで展開されている新たな議論がすべて普遍的な規則に反映されることは難しいようにも感じています。そうはいっても、これだけFTA/EPAが発展して、新たな分野を扱い、新たな配慮をした規則を設けるようになってくると、それはWTO協定に対しても一定の影響をもたらすであろうと思います。そういう意味でそれぞれの役割というよりも、相互の影響を見ていく必要があると思います。繰り返しになりますが、特に先進国間で締結される条約の規定は、より先進的・発展的な内容となっていることは否めないわけですが、その先進国の価値が、まだ発展度合いが十分ではない国に対して押し付けになってもいけないと思います。それぞれの国・地域が抱える事情を踏まえて議論を進めていく場合、まさに国際協力と相互の理解が必要です。経済の分野では、国家の発展や利潤に直接に関わり、人の経済活動にも大きな影響を与える制度を設けるものですから、それほど簡単に相互理解や協力だけで論じられるような分野ではありません。貿易にせよ投資にせよ、人が持っているモノや技術、資金、それからサービスを国際的に活発かつ円滑に移動させることを目的とする制度を国家が作るものですので、普遍的に受け入れられる規則と地域的に受け入れられる規則との間の相互の影響を注視していく必要があると思います。国際貿易の発展が日本の経済成長に資することができるかという観点から、お考えはありますでしょうか。現在の国際社会の構造の中で、日本は、かつてのように、自国だけで発展できるわけではないと思います。いかに外国等との資金や技術、人の交流を円滑にして、日本社会の利益にそれを取り込むかということが重要になってきています。自由貿易体制、特にFTA/EPAが実現するものは、例えば国際的な分業体制です。その中で、日本の産業をどこに位置付けて、その位置付けの中で日本にとって最も望ましい産業の発展をどう考えていくかの検討が求められています。経済活動を個人に委ねるだけではなく、日本全体とし4.本特集号に関する今後の課題今後の国際社会・国際貿易においてFTA/EPAとWTOのそれぞれが果たすべき役割はどういったところにあるのでしょうか。

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