FTA/EPAについては、先ほど利害がある程度共通した国々で協議をすることから合意がしやすいという特徴があるとご紹介いただいたのですが、最近のFTA/EPAに見られる傾向や特徴はあるのでしょうか。EPA/FTAの中で、人権への配慮は、具体的にはどのようなルールとして盛り込まれる例があるのでしょうか。す。地域的なFTA/EPAで実現しているものがそのまま普遍的な規則になりうるというわけではないだろうということは申し上げられるのではないでしょうか。普遍的な枠組みを決めるためにはWTO協定や条約に組み込んでいくことを目指すということになるのでしょうか。国際法の世界は、特に経済分野となると慣習国際法では具体的かつ詳細な規則の必要性への対応ができないので、条約を作ることが有効であると私は考えます。そして、多くの経済分野の条約に置かれている具体的かつ詳細な規則は、基本的には条約の当事国にしか適用がないということになってしまわざるをえません。それらの規則をさらに普遍的な国際社会、国際共同体全体に共有できるようにしていくためには、やはりある程度普遍性を持った組織で規則にしていくしかありません。今のWTO体制は、加盟に一定の資格が必要ですけれども、ある程度発展途上国も取り込んでいるので一定の普遍性を有していると思います。ただしこの発展途上国の間にも格差が大きくなっていることには留意が必要ですが、ある程度普遍的な規則、つまり国際社会の多くの国に適用される共通の規則を実現するために適切なフォーラムだと思います。例えばデジタル貿易や労働、環境といったような、従来の自由貿易では扱われなかったけれども、実はモノの価格に反映される分野に関して先進的な規定がみられます。モノの流通や資金の流動に注目した条約体制ができてきたわけですが、さらに現在の新しい動きや価値観を反映する規則を作成しようと思うと、このような新たな論点を扱う必要が出てきます。こういった分野については先進国においてより関心や問題意識が高いため、高い経済レベルの国の間で締結されるFTA/EPAでは先進的な規定に関する合意が達成されやすいと思います。そして、そのような条約の実行は、まだある程度のレベルに達していない国との間のFTA/EPAにも影響を与え、先進的な価値を認めるべきだという先進国の主張が強い圧力になります。FTA/EPAを結びたければ、新たな規定を認めるべきである、あるいは人権分野のこういう条約の当事国になるべきであるといった要請が圧力として働くと言われています。欧米諸国とFTA/EPAを結ぶことを必要とする諸国にとって、経済的な利益になるので、FTA/EPAを締結するために、新たな内容の規定や他の条約への加入を受け入れることとなります。こうして先進国が望ましいと考える条約体制が構築されていくと思います。こうした交渉を多数国間で行う場合は、一方でいわゆる途上国と括られる中でも利害が異なっている国の一団があり、先進国と括られる国の中でもそれぞれの主張にせめぎ合いがあることから、普遍的な条約体制を作るための多国間での交渉は難しくなっています。例えば感染症対策だと、少なくとも全員にワクチンが行き渡るにはどうするか、それから労働問題に関しては、特にまだ発展度合いが低い国で労働環境が劣悪な人々がいて、それゆえに安価な製品が出てくることに関して、一定の制限をかけるというような発想が出てきます。本特集号について政策担当者にとって着目すべきポイントはどのような点でしょうか。また、一般の読者目線で、「国民生活への影響」という観点ではどのように解釈が可能でしょうか。序文において、今の国際社会の特徴を一般論として書いていますが、国際貿易の個別の分野では、様々なバックボーンを持つ方が条約交渉に関わっておられて、ほとんどの方はその専門分野での交渉をしておられると思います。それは、今回の特集号の中でも例え3. 政策担当者や一般の読者に伝えたいこと 84 ファイナンス 2024 Feb.
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