ファイナンス 2024 Feb. 81 PRI Open Campus ~財務総研の研究・交流活動紹介~ 28置付けになるのかを広く捉えるため、「自由貿易体制の新展開」をテーマとしました。今回寄稿されたすべての論文に、自由貿易に関する国際的な制度の視点から、現在の国際社会の特色が反映されています。前回の第140号と比較して、今回は第二次世界大戦後に構築された、いわゆる普遍主義に基づくGATT/WTO体制をもう一度振り返り、国際社会におけるWTOの在り様やWTOの機能不全によって出てきた活発で地域主義的な動きをどのように位置づけるかということを検討する論文が多く、現在の国際社会における自由貿易体制の在り様をこれまでの経緯を踏まえたうえで検討する論文を書いていただきました。本特集号の執筆者を選定された際のお考えと、執筆者の方々と各論文について簡単にご紹介をお願いできますでしょうか。執筆者9名はすべてそれぞれの分野で実績がある方です。ポストコロナを睨んで現在の自由貿易に関する国際的な制度が直面している問題の中でも、一番今を反映するものとして選んだテーマについて、各分野に最も関係が深く、業績が多い先生方にお願いしました。最初の1.小寺論文は、現在の国際社会においては単純な先進国対発展途上国という対立ではない点に着目しています。国際社会を論じる際に、先進国と発展途上国という区別がされますが、実は発展途上国が多様化しており、また先進国もだんだん一枚岩ではなくなってきています。そのような事情を背景にさまざまな問題が生じている中、特に、「特別かつ異なる待遇」という問題を発展途上国の多様化という側面から執筆いただきました。今の国際経済の問題や国際社会の本質に関わる論考となっています。次に2.飯野論文は、前回の第140号から取り上げているデジタル貿易について、グローバルな規制環境をどのように考えるかということを論じています。もちろんデジタル貿易はWTOの中でも扱われておりますが、一般論として今これだけデジタル貿易に関わる問題が大きく取り上げられるようになってくると、自由貿易の中でも、今までのような財・サービスや金融とは違う側面が表れており、それを改めて取り上げる論考となっています。3.加藤論文は、COVID-19に関する国際通商ルールでの扱いを検討しています。少なくとも今の国際社会における一つの方向性として、国家間の自由貿易体制の中で「人」の問題を考えなければなりません。もともと国際社会が国家間で構成されていると考えられていた時代には、「人」の問題はあくまでそれぞれの主権国家が考えれば良いとされていて、主権国家の枠組みの中で捉えられてきたのですが、今回のような大規模な感染症が起こったときには、国家の政策が「人」の問題と密接に関わってきます。その意味でCOVID-19パンデミックを通して、自由貿易体制の中で各国が「人」の問題に対応するために、どのような措置をとり、そしてそれが国際社会全体の自由貿易体制にどのような影響を与えたかということが論じられています。「人」の問題を無視できなくなった今の国際社会の特徴を表していると感じました。他方で4.阿部論文では、国家の問題として存在する安全保障例外条項の役割や課題が扱われています。経済分野の国際協力体制の出発点は自由貿易体制の促進でしたが、今の国際社会では「人」が持つ経済力の影響が大きくなっており、GATT等に規定される安全保障例外条項に関連する投資紛争が生じる懸念が高まっています。そのため、今までのような自由貿易の促進だけを議論することができないような状況になっています。そこから国家としての安全保障、つまり国家が国内の社会の秩序をきちんと維持していくために必要な措置への議論が必要となります。特に、GATT/WTO体制の中で、安全保障例外条項がどのように位置付けられてきて、それが今の時代にどのような意味を持つかということを論じている点が特徴的です。冒頭申し上げたように、第二次世界大戦後に構築された経済体制は普遍的な組織において普遍性を強調する制度を作る中で生まれてきていますので、そこを振り返ったうえで、今のニーズにどのように対応するのかを議論することには大きな意味があると考えます。5.関根論文と6.福永論文は、地球環境問題という共通の主題について異なった側面からの議論を展開しています。今の国際社会というのは、先ほど申し上げた国家間の体制というだけでなく、「人」の問題に関2. 各論文について、構成全体の関連性と読みどころ
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