ファイナンス 2024年2月号 No.699
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農業の高齢化イコール農業の衰退だ、と言われますが、私たちからしたら、とんでもない考え違いです。1,000m2で2,000万円を超える売上は、50歳、60歳を超えた人たちの力があって初めて達成できているのです。もちろんAIやロボティクスを積極的に入れていますが、何よりも一番当てになるのはこういった熟練した人たちの「経験知」なのです。こういった人たちが自分の居場所を見つけて、愛着を持って長く働き続ける、働く場を自分たちでより良いものに変えていってもらう、こういうことを目指していきたいと思っています。これまでもいろいろな地域づくりの取組が行われてきました。でも、何か地域が浪費されているな、と思うこともよくありました。補助金でいろいろ地域づくりのこともやってきましたけども、結局イベントで終わってしまう。そこに住む人たちじゃない人たちがいろいろな発想や発案をしてやるけれど、予算がなくなったり、補助金がなくなったら、やらなくなってしまう。そういうことじゃなくて、当たり前の日常の中にもっと価値を創り出すにはどうすべきなのかを考えるようになってきました。働く場があり、本当に愛着を持って、長く働き続ける場という、そんな当たり前の価値ある幸せが創れたらいいな、と思っています。よく、スティーブ・ジョブスの言葉を借りるのですけども、「人は形にして見せてもらうまで何が欲しいか分からない」という彼の言葉があります。恐らく、スティーブ・ジョブスが、パワーポイントで「iPhoneは、いいぞ!」と言っても、多分「いや、そんなに高いなら、要らない」と皆思いますよね。でも実際に手にしてみたら、この小さな画面の中にものすごく奥行きがあって、世界と繋がって、あらゆることができることが初めて分かるのです。私たちも「こういう農業をしたいのだ!」と言ったとき、みんなが応援し、理解してくれたわけではありませんでした。でも実際にその農場ができたことによって、全国いろいろなところからお声掛けいただき、(6)サラダボウルに対する需要は社会が決めるよく、売上の目標ありますかとか、農場の数をどこまで増やす目標があるのですか、と聞かれるのですけど、本当にそういうのにはあまり興味がなく、いつも「社会が決めてくれる」と答えています。それはどういうことかというと、社会課題があって、そこから発せられる社会的要請の一つ一つの面が非常に密接に農業と関わっていると思うからです。(7)トータルフードバリューチェーン首長の方々から呼んでいただけるようになりました。そうした流れを受けたのが「いわて銀河農園」の開設です。震災のがれき置き場となっていた土地の活用が何とかできないかという想いを抱いて、岩手県大船渡市の市長が山梨県北杜市の農場「アグリビジョン」を見に来られ、地域を復興していくときに、ぜひ一次産業でも復興を目指していきたいと言っていただき、水産加工業以外の新しい形として「いわて銀河農園」が開設されることになったのです。よく使われる17のSDGsの目標がありますけども、非常に多くの面で農業と接しています。多くの社会課題とそこから発せられる社会的要請に、農業経営が応えることができれば、地域から必然的に求められるだろうと、考えています。多くの地域からお声掛けをいただきながら、農業生産ができているのは、やはりこういった社会課題を背景にした多くの社会的要請と農業とがすごく親和性があるからだろうなと思っています。そうは言っても、農業経営は簡単ではないと私たちも思っています。きちんと戦略を立て、戦術を実行しないといけないのです。トータルフードバリューチェーンを見渡し、「マーケティング」から始まり、どのように「セールスプロモーション」「ブランディング」をしていくのか、産地側からどう送り出し、消費者がどう受け取るのか、こういったバリューチェーンをどう作っていくか。今までは「これを作ったのですが、買ってくれませんか?」という取組だったと思うのですけども、このバリューチェーンの一翼を担うためには、きちんと戦略を立て、戦術をきちんと実行しないといけない。(4)日常の中にもっと価値を創りだす(5)多くの地域からお声がけいただく 68 ファイナンス 2024 Feb.

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