0平令図1 上記グラフにおける実線は、2060年度以降に債務残高対GDP比を安定させるように収支改善を行った場合の基礎的財政収支対GDP比(財政制度等審議会・起草検討委員会, 2018)図2 普通国債残高増加の要因分析(財務省, 2023)(参考文献)Samuelson, P. (1958)“An Exact Consumption-Loan Model of Interest with or without the Social Contrivance of Money”Journal of Political Economy, 66(6), pp. 467-482.財政制度等審議会・起草検討委員会(2018)「我が国財政に関する長期試算(改定版)」.財務省(2023)『日本の財政関係資料』.廣光俊昭(2022)『哲学と経済学から解く世代間問題−経済実験に基づく考察』, 日本評論社.廣光俊昭,佐藤栄一郎,中井智己,矢野智史(2016)「長期推計から見る財政の将来」『ファイナンス』51(12), pp.50-57.(兆円)80604020▲2023456789101112131415161718192021222324252627282930元23450%2010平成2年度末から令和5年度末にかけての普通国債残高増加額:約897兆円地方交付税交付金等(+92兆円)公共事業関係費(+約67兆円)2020203020406.26%~7.19%歳出の増加要因:+約666兆円社会保障関係費(+約445兆円)税収等の減少要因:+約82兆円その他歳出(除く債務償還費)20502060(年度)*4) 数式を交えた、簡便な分析は廣光(2022, pp.179-182)を参照。明らかであろう。本書のいう危機管理マニュアルは、この手の分配上の考慮を含まねばならない。人口がいずれ元に復するのであれば、一時的な人口動態のショックを借金で均霑することは取り得る政策である。高齢世代(世代1)に続く後続世代(世代2)の人口が減少した時、社会全体の生産物は減らざるをえないが、もし後続世代(世代2)が消費を減らすことを受け入れるなら、高齢世代(世代1)の消費(社会保障)を減らす必要はない。後続世代(世代2)が消費を減らす見返りに証書(生産物と交換可能な国債)を受け取り、自らが年老いた時、その証書をさらなる下の世代(世代3)に渡す代わりに生産物を得ることができるのなら、後続世代(世代2)もひとり当たり生涯消費を維持することができる*4。この仕組みは証書がより若い世代に受け取ってもらえる「かのうように」人々が振る舞いつづける限り、まわりつづける。高齢世代の消費削減(社会保障改革)も、証書なしの後続世代への消費削減の強制(増税)も必要ない。問題が起きるのは、人口が復するという予想が外れる時である。そして、厄介なことは、この状況になっても、その先の未来の世代(世代t+2)も証書を受け発展的論点−社会保障と人口最後に本書が必ずしも十分に扱っていない発展的論点を挙げ、マクロ経済論議にいくばくかの貢献をおこなう。本書は、特に2000年代以降の予算編成の焦点でありつづけてきた、社会保障やその背後にある高齢化と人口減少の問題を主題的には扱っていない。しかしながら、財務省(2023)によると、1990年度から2023年度末にかけての普通国債(建設国債+特例公債等)残高の増加額約897兆円のうち、社会保障関係費の増によるものは約445兆円を占めている(図2)。他には地方交付税交付金等が92兆円あり、地方費に福祉関係支出が含まれているから、財政悪化の過半が社会保障関連に由来することになる。「借りっぱなし」と「貸しっぱなし」が四つに組んだ状況と本書が形容する、日本のマクロ経済の姿に、この財政の姿は別の角度から光を当てることを要求する。取るだろうと後続世代(世代t+1)に信じ込ませ、自身は手つかずの社会保障制度のもとで人生を終えることが、先行世代(世代t)の利益になることである。社会保障は「世代間での支え合い」の仕組みともいわれる。賦課方式の利点は、ポール・サミュエルソンが1958年の論文(Samuelson, 1958)ですでに明らかにしている。それでも、「世代間での支え合い」が成立する条件がどのようなものであるか、先行世代(世代t)は考える必要がある。本書『財政規律とマクロ経済』は、日本経済の来し方行く末を論理の道筋に沿って考える用意のある、すべての人に手に取ってもらいたい書物である。PB(対GDP比) 64 ファイナンス 2024 Feb.
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