ファイナンス 2024年2月号 No.699
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ファイナンス 2024 Feb. 49 図表4 BEIを構成する諸要因ブレーク・イーブン・インフレ率(BEI)入門(出所)安達・平木(2021)より抜粋名目長期金利(名目国債金利)物価連動国債(①-②)*11) 安達・平木(2021)に則れば、ターム・プレミアム較差と書くべきところですが、アング(2016)では「ブレーク・イーブン・インフレ率(BEI)=期待インフレ率+リスク・プレミアム」とするなど、「プレミアム」と記載することも多いことから、ここではシンプルに「流動性プレミアム」、「ターム・プレミアム」としています。名目長期金利の予想成分実質長期金利の予想成分利回りBEI市場参加者の予想インフレ率名目タームプレミアム実質タームプレミアム元本保証プレミアム元本保証プレミアムプレミアム流動性プレミアム流動性名目TP実質TPTPの較差TP:タームプレミアム… ①… ②-流動性プレミアム+ターム・プレミアム*11参照してください)。この意味で、物価連動国債のトレーディングは、BEIの動きだけではなく、名目金利の動きの影響も受けるということが分かります。もし読者がBEIの動きにだけリスクを取りたいのであれば、例えば、名目債をショートすることで金利リスクをヘッジをしながら物価連動国債を保有することが考えられます。実際、ヘッジファンドなどは「物価連動国債ロング+名目債ショート」のようなポジションを取っています。これまでBEIについては、「BEI=名目金利-実質金利」というシンプルな定義を用いてきました。しかし、2013年に再開された物価連動国債には元本保証(フロア)が加わりました。前述の通り、物価連動国債はコアCPIの度合いに応じて満期で償還される額が変化します。仮にデフレが起これば、満期で償還される額が100円以下になるところ、新型物価連動国債では、その下限が100円に設定されており、これを元本保証(フロア)といいます。これは、元本が100円以下にならないオプションを有していると解釈できます。この事実を別の角度から見ると、物価連動国債の価格には、このオプション分の価値が上乗せされることを意味します。そのため、「BEI=名目金利-実質金利」と計算すると、実質金利にオプションの価値が反映されることになり、オプションのプライス分、バイアスが生まれます(BEIは利回りの差で定義されているため、ここでのフロア・オプションは価格ではなく、年率のプレミアムの概念で議論されている点に注意してください)。また、名目債と物価連動国債では流動性やターム・プレミアム(リスク・プレミアム)に違いがあり、そのことが物価連動国債の価格に影響を与えます(ターム・プレミアムについては服部(2023)の10章を参照してください)。したがって、これらを考慮して、BEIを下記のように分解することも少なくありません。BEI= 期待インフレ率+フロア・プレミアム 図表4はこれらの関係を示した図です。ここではBEIは、期待インフレ率に加え、(1)元本保証に伴うプレミアム、(2)名目債と物価連動国債の流動性の違いから生まれるプレミアム、さらに、(3)名目債と物価連動国債のリスク・プレミアム(ターム・プレミアム)の違いにより構成されます。図表5は、BEIと予測インフレ率の乖離を生む要因を整理しています((1)元本保証のプレミアムと(2)流動性プレミアムについては紙面の関係で次回の論文で説明する予定です)。3.3  BEIのバイアス:フロア・オプションとリスク・プレミアム

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