ファイナンス 2024年2月号 No.699
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P=*10) ここでは物価連動国債について割引債を想定した説明をしているため、BEIを計算するために用いられる名目金利についても、名目の割引債により計算していると想定しています。ら、名目債で運用するより1%程度高いリターンが実現することになります(単価101円で買ったところ、102円で償還されるので1%のリターンであり、名目債のリターン(0%)を1%だけ上回ります)。一方、向こう1年間でコアCPIの上昇率が0%であれば、名目債で運用すれば0%であったところ、101円で購入した物価連動国債が100円で償還されるのでリターンは-1%となり、名目債で運用したほうがよかったということになります。これまでの議論では、物価連動国債を購入後、最後まで持ち切ることを想定していました。一方、物価連動国債を途中で売却すれば、キャピタル・ゲインを得られる可能性もあります。10年の物価連動国債の価格は、通常の資産価格と同様、将来キャッシュ・フローの割引現在価値で決まります。現在の物価連動国債の利率が0.005%など小さいことから、簡単化のためにクーポンを捨象すると、将来のキャッシュ・フローは満期に返済される部分のみになります(つまり、割引債を想定しています)。この場合、物価連動国債の満期(10年後)におけるキャッシュ・フローは、現在における市場の予想インフレ率に基づき決まると考えられます。物価連動国債の場合、市場予想としてBEIを用いるのが合理的ですから、期待インフレ率であるBEIが10年間実現した場合、10年後に100×(1+BEI)10というキャッシュ・フローが生まれます。ここでは割引債を想定しているので、100×(1+BEI)10は将来発生する唯一のキャッシュ・フローであり、これを名目金利iで割り引いたものが将来キャッシュ・フローの割引現在価値であるため*10、物価連動国債の価格Pは下記の通りになります。100×(1+BEI)10このことから、物価連動国債の価格の変動は(1)BEIと(2)名目金利iに依存することがわかります。(1+i)10例えば、上記の式によれば、10年のBEIが1%であり、10年債の名目金利が1%である場合、物価連動国債の価格は100円になります。ここで、投資家の見通しが変わり、例えば期待インフレ率が変わることでBEIが50bps上昇したとしましょう。これは、BEIが1.5%になったということですので、上記の式を用いれば、という形で、物価連動国債の価格は105.06円となりますから、投資家はBEIの50bpsの上昇により、約5円のキャピタル・ゲインが得られることになります。もっとも、それと同時に、仮に名目金利も1%上昇したとしましょう。この場合、iが2%となるため、上記の式を計算すると、95.20円となり、キャピタル・ロスを被ることになります。このように仮にBEIが上昇したとしても、名目金利が上昇することにより、キャピタル・ロスを被る可能性があります。投資家のリターンは、対象としている物価連動国債の年限にも依存します。先ほどは10年の物価連動国債を考えましたが、例えば、5年の物価連動国債の場合、という形で物価連動国債の価格を計算できます。先ほどと同様、5年のBEIが1%、5年の名目金利が1%である場合、価格は100円になります。投資家はBEIが50bps上がると考えた場合(BEIが1.5%になる場合)、上記の式より価格は102.50円となり、キャピタル・ゲインがおおよそ2.5円得られます。また、それと同時に、名目金利が1%上昇した場合、価格は97.57円となり、キャピタル・ロスを被ることになります。5年の場合、先ほど計算した10年物価連動国債のキャピタル・ゲインやキャピタル・ロスに比べて、その額が約半分になっていることから、年限に応じて価格の変化の度合いが変わる点が確認できます(年限が感応度になる点は通常の国債と同じ性質ですが、デュレーションについては服部(2023)の4章を100×(1+0.015)10(1+0.01)10100×(1+BEI)5P=(1+i)5≒105.063.2  物価連動国債の価格の変動:BEIと名目金利 48 ファイナンス 2024 Feb.

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