ファイナンス 2024年2月号 No.699
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記 T+ 図表2 物価連動国債の入札結果t=1(参考)発行日(11月8日)の連動係数 1.01519(出所)財務省本日、10年物価連動国債(第28回)の入札について、下記のように募入の決定を行いました。1.名称及び記号2.発行根拠法律及びその条項3.表面利率4.発行日5.償還期限6.応募額7.募入決定額8.発行価格(募入最低価格)104円75銭9.募入最高利回り-0.480%10.募入最低価格における案分比率(注1)発行価格は連動係数積算前の価格(注2)募入最高利回りは発行価格を基に算出した単利利回り100P=∑C(1+r)t(1+r)T10年物価連動国債(第28回)の入札結果利付国庫債券(物価連動・10年)(第28回)特別会計に関する法律(平成19年法律第23号)第46条第1項年0.005パーセント令和5年11月8日令和15年3月10日6,821億円2,499億円36.7741%令和5年11月7日財務省*3) 太田(2016)では、物価連動国債の利回り(年1回利払いの場合)を下記の通り定義しており、「一見してわかるように、式としては通常の名目債の(複利)最終利回りとまったく同じ式になる。実務上は通常、物価連動国債においてはこのように物価変動による元金額の変動を明示的に考えなくても、実質利回りを計算できることになる」(p.190)とコメントしています(下記におけるPは債券価格、Cはクーポン、Tは満期までの年数、rは実質利回り)。*4) 例えば、2004年6月の入札において10年物価連動国債の発行価格は100円となっているため、表面利率が1.1%であり、最高利率も1.1%となって*5) 日銀の黒田前総裁は、第186回国会の財務金融委員会において「金融緩和の局面で、どうしても、金利が実質的にはマイナスにならなくても、実質金利がどんどん下がっていきますと、当然ですけれども、借り入れている人には有利になり、貯蓄している人には不利になるという面があることは否めませんが、金融緩和は、あくまでも、そういったことを通じて経済を回復させ、そして物価の安定を目指すということでございまして、御指摘の点は十分理解しておりますけれども、こういったことを通じて、より投資、消費を刺激、促進して、経済の回復、物価安定目標の達成に向けて全力を挙げて努力しているというところでございます。」と指摘しています。https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kaigirokua.nsf/html/kaigirokua/009518620140423009.htmいます。という関係から計算することができます。通常の国債の市場価格より「名目金利」が得られますが、物価連動国債の価格が得られれば、インフレの影響を受けない金利である「実質金利」を算出することができます。したがって、期待インフレ率は、その差分をとることで計算することができます。ここで算出される期待インフレ率が、名目債と物価連動国債の収益率が等しくなるインフレ率であり、どちらに投資をしてもリターンが同じ(ブレーク・イーブン)インフレ率であることから、ブレーク・イーブン・インフレ率(BEI)と呼ばれます(後ほど具体例を用いて説明します)。もっとも、物価連動国債にはフロア(元本保証)のオプションが含まれることや名目債と流動性が異なることなどから、期待インフレ率の指標として一定のバイアスがあることが知られています(この点は次節で議論します)。物価連動国債は、満期にインフレ率で調整された元本が返済される商品ですが、実質金利を名目金利から物価の影響を排除した金利と考えれば、物価の影響を排除した状況を想定することで、実質金利を算出することが可能です。つまり、物価連動国債の表面利率が期中に得られるとし、最後に100円が償還されると想定することで実質金利を計算することができます*3。物価連動国債における入札結果では、「募入最高利回り」が公表されますが、服部(2024)に記載したとおり、これは「実質金利」を指しています(同年限の名目債の金利からこの実質金利を引けば、BEIが計算できます)。図表2が入札結果の一例であり、この図表において募入最高利回りは-0.480%と記載されています。これは表面利率が0.005%であるところ、発行価格が104円75銭になっているため、104円75銭で購入したものが10年後に100円で償還されると想定すれば、実質金利が-0.480%というマイナス金利であることが理解できます*4。図表3が入札結果から得られる実質金利の推移になりますが、フロア・オプションが付された物価連動国債(新型物価連動国債)が発行された2013年以降、実質金利はおおむねマイナスで推移していることがわかります(フロア・オプションが付された2013年以降の物価連動国債を「新型物価連動国債」、それ以前のフロアなしの物価連動国債を「旧型物価連動国債」と表現します)。実質金利が低位で推移していることは緩和的環境であると解釈することもできます*5。また、物価連動国債から算出される実質金利は流動性な2.2 実質金利の計算方法 46 ファイナンス 2024 Feb.

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