ファイナンス 2024年2月号 No.699
49/104

ファイナンス 2024 Feb. 45 図表1 物価連動国債のキャッシュ・フロー100円(出所)筆者作成利子および元本がインフレ率(消費者物価指数)に依存利子利子・・・元本利子10年(満期)時間*1) 本稿の作成にあたって、様々な方に有益な助言や示唆をいただきました。本稿の意見に係る部分は筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織の見解を表すものではありません。本稿の記述における誤りは全て筆者によるものです。また本稿は、本稿で紹介する論文の正確性について何ら保証するものではありません。*2) 下記をご参照ください。 https://sites.google.com/site/hattori0819/1.はじめに本稿は「物価連動国債入門―基礎編―」(服部, 2024)を前提に、物価連動国債から算出される期待インフレ率(ブレーク・イーブン・インフレ率、BEI)について解説することを目的としています。物価連動国債を発行する目的は投資家にインフレヘッジの手段を提供することですが、家計や企業が予想する期待インフレ率の測定を行うことも重要な目的の一つです。経済学のモデルには家計や企業の期待が含まれることから、経済学の研究において期待インフレ率の推定は非常に重要です。また、例えば金融政策において期待への働きかけが重要であるなど、期待インフレの推定は実際の政策評価においても有益です。*1東京大学 公共政策大学院 服部 孝洋*1本稿では、物価連動国債について期待インフレ率の観点からその理解を深めます。具体的には、BEIの定義に加えて、その特徴について議論します。また、物価連動国債の実務においては連動係数というテクニカルな概念を理解しなければなりませんが、本稿では他の文献に比べて丁寧な記述を試みます。本稿は服部(2024)を前提としているため、同論文で説明した概念は説明なく用いられる点に注意してください。また、本稿は日本国債に関する基礎的な知識も前提にしています。国債の商品性の概要は、筆者が記載した「日本国債入門」(服部, 2023)をご参照ください。筆者が記載してきた債券入門シリーズは、筆者のウェブサイトにまとめて掲載してあります*2。物価連動国債の特徴は、図表1のようにクーポンおよび元本が物価に連動する点です。物価連動国債は、生鮮食品を除く消費者物価指数(コアCPI)に元本が連動するよう設計されていますが、物価連動国債の商品性については服部(2024)で説明したため、ここでは物価連動国債から算出される期待インフレ率について議論を進めていきます。まずフィッシャー方程式を考えると、下記が成立します(フィッシャー方程式についてはマクロ経済学のテキストなどを参照してください)。したがって、期待インフレ率は名目金利=実質金利+期待インフレ率期待インフレ率=名目金利-実質金利2.BEIと期待インフレ率2.1 期待インフレ率とはブレーク・イーブン・インフレ率(BEI)入門-物価連動国債から算出する期待インフレ率-

元のページ  ../index.html#49

このブックを見る