ファイナンス 2024年1月号 No.698
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3.副作用から考える心理的安全性もう一つは「情緒的支援」です。これは愚痴を聞いたり、励ましたり、慰めたりする、といった感情面でのケアを指します。道具的支援ばかりになって、情緒的支援が欠けているとストレスフルな環境になるので、情緒的支援も同僚間で行っていきましょう。ウ)ピアサポートを増やす3つの方策では、ピアサポートをどう促していけばよいのでしょうか。「サポートせよ」と命令するわけにはいかないので、間接的に促していく必要があります。北風と太陽の寓話における、太陽のような方法が必要です。3つ紹介します。a.仕事の状況を可視化1つ目は「仕事の状況を可視化する」ことです。隣の席に座っているのに、その人が何の仕事をしているのかがあまり分からない、といったことはありませんか。今どんな仕事に取り組んでいるのかを共有する仕組み作りが大事です。b.感情の状況を共有2つ目は「感情の状況を共有する」ことです。働いているときに、「今困っている!」と表情に出る人もいますが、そうでない人もたくさんいます。そこで今、どんな感情にあるのかを共有しましょう。例えば、チャットツールを使っていたら、自分のプロフィールの名前に、現在の感情を表す顔文字を加えることができます。他にも、仕事で困っているとき、机の上に札を立てる方法もあります。そうすると、「今困っているのなら、声をかけよう」と助け合うことができます。c.まずは自分から支援3つ目は「まずは自分から支援する」ことです。自分が率先して周囲を助けていくと、関係ができていきます。サポートしてくれた人に対しては、サポートをお返しようという「返報性の原理」も働きます。自分も支援を受けやすくなり、職場全体で見ると、ピアサポートが浸透します。最後のパートになります。心理的安全性は、最初に申し上げたとおり、基本的には有効です。ただし、心理的安全性は万能薬ではありません。相性が良い職場もあれば、良くない職場もあることをご理解いただきたいと思います。心理的安全性と相性が良くない職場について、3つ挙げます。イ)集団主義と個人主義集団主義と個人主義の職場があります。集団主義は、自分よりも集団を優先する職場です。例えば、他のメンバーと協力することがよしとされる職場です。他方で、個人主義の職場では、集団よりも個人が優先されます。個人の努力や成功の価値が高く、他のメンバーと競争することに重きを置かれているのが個人主義の職場です。実は、集団主義と個人主義で、心理的安全性の効果が違ってきます。心理的安全性は集団主義の職場の方が相性はよく、他方、個人主義の職場では心理的安全性が高いとモチベーションが下がってしまいます。集団主義の職場では、本音を言っても大丈夫になったというときに、集団全体の利益を考慮した意見が出やすくなります。そのため、良い形で物事を進めていけます。しかし、個人主義の職場だと、個々人が自分勝手に自分のことを考えて意見を言えるようになるため、チームとしてのまとまりが失われてしまいます。結果として得られる利益や効率性を優先に考える職場のことを、功利主義が高い職場と呼びます。功利主義が高い職場で、心理的安全性が高まると、「結果さえよければいい」という考え方のもと、本音の意見で言えるようになってしまいます。そうなると、結果を出すために、非倫理的な行動をとってしまうことが分かっています。(1)心理的安全性は万能薬ではないア)相性の良い職場、相性が良くない職場(2)心理的安全性と集団主義、個人主義(3)心理的安全性と功利主義 61 ファイナンス 2024 Jan.

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