ファイナンス 2024年1月号 No.698
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ファイナンス 2024 Jan. 58 令和5年度上級管理セミナーかく決まりかけているのに、反対意見を言うと、職場の雰囲気が悪くなってしまうのではないか」といった懸念のことです。こうした対人関係のリスクを気にしなくても大丈夫な状態を、心理的安全性が高いと言います。もう少し具体的に考えてみます。例えば、皆さん、あるいは、他のメンバーが大胆なアイデアを思いついたとします。そのときに、アイデアを臆することなく発信し議論することができるのが、心理的安全性が高い状態です。逆に、心理的安全性が低い状態では対人関係のリスクを意識してしまいます。他の例をもう一つ。心理的安全性が高いと、失敗をしたときにも、その失敗を認めて問題解決や再発防止に向けて進めることができます。逆に、心理的安全性が低い場合には、非難されるかもしれないと思い、失敗を共有せず隠すことにつながってしまいます。心理的安全性については、今までいろいろな研究が行われていますが、それらの研究を統合的に分析して、結局何が明らかになっているかを検証した論文があります。その論文によると、心理的安全性には様々な効果があります。主要な効果として、まず「職場の学習が促進されること」です。学びや気付きが誘発されます。「パフォーマンスが高まる」という効果もあります。仕事に集中しやすくなり、成果も上げやすくなるのです。さらに「自由にアイデアを探求できるようになる」という面もあります。創造性が高まるということです。「やりがいを持って働けるようになる」ことも心理的安全性の効果になります。日本で心理的安全性が注目されている理由は他にもあります。それは、心理的安全性が日本の文化に適合しているからです。文化の国際比較を行っていくと、日本は不確実性を回避したいと考える傾向があります。不確実性とは、情報が足りず、予期できない状況です。不確実性を回避したいと考えるほど、心理的安全性の効果が強くなります。不確実性を回避したい気持ちがあると、本音で話しにくいものです。そのような中で、心理的安全性が高まることの効果が、他国と比べて、より強く出やすい点があります。イ)集団主義の文化集団主義の文化においても心理的安全性の効果が高まりやすいことが分かっています。こちらについては、後ほど詳細に説明します。いずれにせよ、心理的安全性は、日本の典型的な組織には合っているため、それを高める取り組みが功を奏しやすいと言えます。そのことが注目を加速させているのでしょう。2つ目のパートでは心理的安全性を高めるための4つのアプローチを紹介します。「謙虚なリーダーシップ」「インクルーシブ・リーダーシップ」「仕事の自律性」「ピアサポート」の4つです。心理的安全性を高めるための1つ目のアプローチは、「謙虚なリーダーシップ」です。謙虚なリーダーシップとは、自分の欠点を認めたり、メンバーに助言を求めたりするようなリーダーシップのことを指します。イ)謙虚なリーダーシップ発揮のために謙虚なリーダーシップを発揮していくために、できることは3つあります。a.自分自身の欠点を認めて開示する1つ目は「自分自身の欠点を認めて開示する」ことです。(5)大胆なアイデアを思いついたとき・・(6)心理的安全性は様々な効果をもたらす(7)日本の文化では心理的安全性が特に有効ア)不確実性を回避する文化(1)4つのアプローチ(2)謙虚なリーダーシップア)「謙虚なリーダーシップ」とは2.心理的安全性を高める方法

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