ファイナンス 2024年1月号 No.698
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00 2021202020192018201720162015201476543210ファイナンス 2024 Jan. 52コラム 経済トレンド 115(図表11)セキュリティ・クリアランス(図表8)利益率確保の概要制度で期待される効果イメージ(出所)防衛省HP「防衛生産基盤強化法について」、防衛装備庁「防衛装備に係る事業者の下請け適正取引等の推進のためのガイドライン策定に向けた有識者検討会」、西口敏宏・森光高大「防衛調達論」(出所)経済産業省「防衛装備の海外移転の許可の状況に関する年次報告書」、内閣官房「経済安全保障分野におけるセキュリティ・クリアランス制度等に関する有識者会議」、内閣府「自衛隊・防衛問題に関する世論調査」(件)2,0001,5001,000500(注)文中、意見に関る部分は全て筆者の私見である。●防衛産業の位置付け明確化・装備品等の開発及び生産のための基盤を強化することが一層重要となっていることを明確化●サプライチェーン調査(対象:任務に不可欠な装備品を製造する企業)・調査により、防衛省がサプライチェーンリスクを直接把握・企業は防衛省の調査に対して回答の努力義務●基盤強化の措置(対象:任務に不可欠な装備品を製造する企業)防衛装備品等の製造に資する企業の取組について、サプライヤーも含め、経費を直接的に支払●製造施設等の国による保有(対象:任務に不可欠な装備品を製造する企業)上記の措置を講じてもなお、他に手段がない場合、国が製造施設等を保有し、企業に管理・運営させることを可能にする●装備品等契約における秘密の保全措置⇒装備品等の機微情報の保全強化●装備移転円滑化措置(対象:装備移転を行う企業)装備品等の仕様・性能等を変更する費用に対する助成金の交付自衛隊等の活動又は邦人の安全確保のために必要なもの国際共同開発・生産に関するものその他国際共同開発・生産に関するものの全体に対する割合(右軸)・2014年6月に策定した「防衛生産・技術基盤戦略」を踏まえ、防衛省は契約制度の改善・防衛装備庁の新設など、防衛生産・技術基盤の維持・強化に資する施策を実施してきた。2023年10月には「防衛生産基盤強化法」が施行され、任務に不可欠な装備品を製造する企業の取組みに対して、経費を直接支払うことなどが可能となった(図表7)。企業の利益率を確保する取組みとして、想定営業利益率を従来の目安である8%から15%に引き上げる等、企業が利益を確保できるような改革も進んでいる(図表8)。・上記のような施策により、企業の利益率を確保できる可能性はあるが、西口氏・森光氏の「防衛調達論」では日本の防衛調達で採用されている競争入札が必ずしも効率的と言えないことを指摘している。防衛産業と同じく、汎用性が低い自動車部品の契約において、日本の自動車メーカーが、選良された複数のサプライチェーンに同部類の部品を独自製造させる(併社発注)ことでサプライチェーン同士を競わせた結果、国際競争力を高めてきたと紹介されている(図表9)。・利益率の上昇が国内装備品の技術向上に直結することと同義ではなく、企業が自らコストカットを行うインセンティブは低いままであるため、企業間の競争が起きるような環境を整えていくことが防衛生産・技術基盤の維持・強化には重要であろう。(図表7)防衛生産基盤強化法概要・装備品や関連技術の輸出が事実上不可能とされていた時代もあったが、2014年に「防衛装備移転三原則」が閣議決定され、一定の条件下で輸出が可能となった。これに伴い、米国を始め安全保障面で協力関係にある諸国との国際共同開発・生産に関する海外移転は年々増加傾向にある(図表10)。ただ全体に占める割合は契約件数ベースは増加傾向にあるが5%程度にとどまっており、引き続き諸外国との共同開発・生産を積極的に行うことは防衛産業発展の一つの鍵になるだろう。・他の先進国では経済安全保障分野のセキュリティ・クリアランス制度が存在するが、日本では同様な制度がないため、防衛産業を含む日本企業が不利な状況に直面するケースもある。そのため、日本でもセキュリティ・クリアランス制度検討の動きがある。日本企業にとっては取得や維持コストの発生が見込まれる一方で、ビジネス拡大の機会になりうるだろう(図表11)。・日本が戦争に巻き込まれる危険性があると回答した人が10年前よりも増加しており、防衛を身近な問題として捉えている国民が多い(図表12)。安全保障を社会的に重要な課題として捉える傾向が強くなっていることもあり、引き続き適正な安全保障、それに係る防衛産業について積極的に議論する必要があるのではないか。(図表10)防衛装備の海外移転の 許可件数推移(%)●資金の貸付け(対象:装備品を製造する企業)米国政府米国民間企業・米国の安全保障上重要な情報・日本の安全保障上重要な情報米国の安全保障上重要な情報日本政府でも情報指定米国政府でも情報指定日本の安全保障上重要な情報・米国の安全保障上重要な情報・日本の安全保障上重要な情報<2019年時点>セキュリティ・クリアランスホルダー米国:政府290万人(68%)   民間103万人(24%)   不明32万人(7%)日本:政府13万人(97%)   民間3,444人(3%)・QCD評価:個別企業の防衛事業における、品質管理(Quality)、コスト管理(Cost)、納期管理(Delivery)を評価し、その企業努力を利益率に反映。・コスト変動率:個別の契約の履行期間に応じて、総原価に積算することで、企業努力の及ばない将来の労務費や物価高騰等のコスト上昇のリスクを吸収日本政府基本的な情報交換の流れ直接の専門的会話ができる利益率5.0%~10.0%個別企業の想定平均利益率8.0%コスト変動調整率1.0%~5.0%2023年度以降従来QCD評価に応じて設定契約期間に応じて設定併社発注2011年度27.32022年度38.1危険があるどちらかといえば危険があるどちらかといえば危険がない危険がない無回答・分からない(図表9)単社発注と併社発注の概念図単社発注(図表12)日本が戦争に巻き込まれる 可能性があると考える人の割合5.7サプライヤー1サプライヤー2サプライヤー1サプライヤー2サプライヤー3サプライヤー4日本民間企業45.117.21.61.04.948.111.2100(%)50部品部品タイプAタイプA部品部品タイプBタイプB部品タイプA部品タイプA部品タイプB部品タイプB防衛産業に対する政策防衛産業の展望

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