ファイナンス 2024年1月号 No.698
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*4) 2023年11月末現在ブラジルはOECDに加盟していない。*5) https://www.gov.br/mdic/pt-br/assuntos/noticias/2023/setembro/mdic-de■ne-oito-eixos-de-atuacao-para-reduzir-custo-brasil*6) 上院案において、下院案の連邦制評議会(Conselho Federativo)から改称された。と定義している*4。同省は、ブラジルコストについてパブリック・コンサルテーションを実施し(2023年4~6月)、101機関から1,283件の意見を収集した*5。この中で最も指摘が多かったのが税制に関連するもので、全体の18.8%を占めた。また、2020年公表の世界銀行の統計では、ブラジルにおいては、企業が税金を納めるまでに費やす時間は年1,501時間に上ると示されている(ラテンアメリカ・カリブ地域では年317.1時間、OECD高所得国では年158.8時間、日本は年129時間)。税の種類が多い上、連邦、州、市でそれぞれに税が存在し税制が複雑となっていること等が背景にあると考えられる。新政権発足直後からアダッジ財務大臣は、税制改革を最優先事項と位置付け、税の簡素化や公平で透明性の高い税制を実現するため、第一段階として消費関連税(間接税)、その後に法人税や所得税(直接税)に関する改革に着手するとの方針を示した。消費関連税の改革については、財やサービスの消費時に連邦及び州・市で徴収される5つの税を統合した付加価値税の創設を通じて、簡素な税制を目指すものである。複雑さを示す例として、商品やサービスに対して連邦で3種類、州及び市で各1種類の税が存在すること、また、州政府(26州+1連邦直轄区)が徴収する商品流通サービス税(ICMS)については州によって税率に違いがあること等、が挙げられる。政府は、税制改革の審議を速やかに進展させるため、2019年に議会上下院それぞれで起草及び提出された、付加価値税の創設を含む2つの憲法修正案をベースに内容の検討を進めた。両案は、提出当時において議論が進んでいたものの採決までには至っていなかった。2023年2月、下院に税制改革ワーキンググループ(WG)が設置され、また上院案の起草者の1人を財務省税制改革特命次官に任命し、当該WGでの具体的な改革の検討に大きく関与させた。6月末、付加価値税の創設等に関する税制改革は、憲法修正案として議会に提出された。各産業をはじめ、州知事や市長といった利害関係者との調整を経て7月初旬に下院で可決。報道では30年来の悲願に向けた歴史的な一歩であるなどと報じられた。その後、同案は11月初旬に上院においても可決された。上院で変更された部分について、再度下院において議論が行われており、2023年中の議会承認が見込まれている。また、税率といった新たな税制度についての詳細については、今後、補足法の審議を通じて決定されることになる。在ブラジル日本国大使館では、ブラジルに進出する日本企業を支援する一環として、サンパウロに所在するブラジル日本商工会議所が取り纏めた、ブラジル税制に関する改正要望や提言(税務コスト軽減のため税制の簡素化等)を、首都ブラジリアにおいて政府や議会の関係者に対して届けてきた。今般の税制改革においても、政府では財務大臣、税制改革担当特命次官、連邦歳入庁特別次官のほか、議会では下院WGリーダーや与野党有力議員に対し、要望書の手交及び説明を通じた働きかけを実施した。【付加価値税の創設等に関する税制改革の主な内容】(1)当該改革を通じて連邦ベースと州・市ベースで徴収する税をそれぞれ統合して、2つの付加価値税と1つの選択税を創設する。これまでは各州は州税ICMSの税率引下げといった優遇措置を通じて工場誘致等を競ってきたが、税率の統一や消費地での課税へと変更されることで、これらの優遇措置が行えなくなる。・CBS(財サービス負担金):連邦で徴収しているPIS(社会統合基金:失業保険等の財源)、Cofins(社会保険融資負担金:社会保障、医療、福祉の財源)、IPI(工業製品税)を統合したもの。・IBS(財サービス税):州で徴収しているICMS(商品流通サービス税)と市で徴収しているISS(サービス税)を統合したもの。・IS(選択税、Imposto Seletivo):健康や環境に有害な商品に対する税。あわせて、IBSの徴収や州・市へ適切に配分を管理する運営委員会(Comitê Gestor)を設置*6。(2)品目や性質等によって異なる税率を適用することが見込まれている。上述のとおり、税率の具体的な 47 ファイナンス 2024 Jan.

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