ファイナンス 2024年1月号 No.698
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FOREIGNFOREIGNWATCHERWATCHERファイナンス 2024 Jan. 42 *1) IMF世界経済見通し(2023年10月版)によれば2022年に世界第11位の経済規模。「Brazil is Back(ブラジルが戻ってきた)」-この言葉とともに、2023年1月、第3次ルーラ政権が発足した。前政権の外交姿勢やパンデミックの影響によって生まれた国際社会との距離を、環境問題への取組や新興各国との連携強化を通じて大きく縮め、国際舞台に躍り出ようとする姿勢を示す象徴的なメッセージだと感じた。同国の国際社会への復帰を大きく特徴づけた1つに、日本が議長国を務めた2023年のG7があげられるのではないだろうか。新政権発足時のその言葉に合わせるかのように、5月、日本は新潟で開催されたG7財務大臣中央銀行総裁会合に、ブラジルのフェルナンド・アダッジ財務大臣をパートナー国参加として招待した。そして、6月のG7広島サミットへのルーラ大統領の参加と続く。2023年12月からはブラジルはG20の議長国を務めている。さらに2025年には北部パラー州ベレン市で第30回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP30)を開催する予定となっている。少なくとも今後数年間は、経済と環境の分野において、ブラジルには国際舞台おいて大きな役割が期待されるだろう。国内に目を向けてみると、ブラジルはその広大な国土に豊富な天然資源と再生可能エネルギーを生み出す自然環境、穀物、大豆や肉類といった農畜産物、アマゾンの熱帯雨林、2億を超える人口が生み出す名目GDP約2兆米ドル規模*1の経済を抱えている。その一方、貧富の格差という問題のほか、複雑な税制度や高金利といった企業の経済活動への足かせが根深く存在する。このような環境下で発足した第3次ルーラ政権であるが、大統領選挙キャンペーン時には低所得層向けの給付金の拡大といった政策を公約に掲げていたことから、発足当初においては財政拡大路線へと進むのではないかとの見方もあった。しかし、実際には、財政運営の見直しを実施するとともに、長年にわたり改善が求められてきた複雑な税制を簡素化する改革を大きく前進させており、バランスの取れた経済政策運営を展開していると言えるのではないだろうか。また、気候変動への対応が地球規模で求められる中、ブラジルは自国のもつ環境面でのポテンシャル、すなわちアマゾン熱帯雨林と再生可能エネルギーを最大限に活用しようとしている。本稿では、最近のブラジル経済の動向のほか、第3次ルーラ政権下のブラジル財務省が優先事項に据えて取り組んでいる政策である、新たな財政枠組の策定、税制改革の実施、持続可能な経済の実現の3点について概要を紹介したい。なお、本稿に記載した各政策及び法案に係る内容は概ね執筆時(2023年11月末時点)に公表されているものを参照している点、予めご了承いただきたい。また、記載の内容は筆者個人の見解であり、所属組織の見解を示すものではない。本稿における誤りについては、すべて筆者の責に帰すべきものである。在ブラジル日本国大使館一等書記官 岩崎 英明海外ウォッチャーブラジル経済概観と財政・税制改革への取組について

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