ファイナンス 2024年1月号 No.698
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図表6 流動性供給入札及び買入消却の仕組み(出所)財務省「債務管理リポート2023」より抜粋発行当局買入消却・複数銘柄の既発国債を入札により買入・令和5年度:市場の状況や市場参加者との意見       交換も踏まえ、必要に応じて実施流動性供給入札・複数銘柄の既発国債を入札により追加発行・令和5年度:12.0兆円・補完的な手段としての位置づけを踏まえて実施満期償還新規発行(入札)市 場*8) 実務では、買入消却代金のうち、オーバーパーの部分は債務償還費として繰り入れるものの、額面は債務償還費の繰り入れではなく国債整理基金特会の借換債収入で対応します。例えば、ある銘柄を105円で額面200億円分買い入れた場合、償還費は合計で210億円必要になります。その財源は、10億円分が一般会計国債費から国債整理基金特会への繰り入れ、残り200億円分が国債整理基金特会の借換債収入となります。*9) 債務管理リポートでは、「従来、国債の買入消却は、相続税法に基づき国に国債が物納された場合や、公職選挙法に基づき立候補者が国に供託した国債が落選とともに没収された場合などに限って実施されてきましたが、平成14年6月に国債証券買入銷却法を改正するなど制度面を整備し、平成15年2月からは、発行当局側のニーズからも機動的に実施しています」と指摘されています。*10) 日本国債ガイドブック2006では、「『平成20年度問題』とは、平成20年度に国債の満期償還が集中し、特段の対策をとらなかった場合、同年度において借換債の発行額が急増するという問題のことで、近年、国債管理政策上の大きな課題の一つとなっていました。そもそも、平成20年度に国債の満期償還が集中することとなったのは、(1)平成10年度当初予算において、国鉄及び国有林野の債務承継に係る借換債が発行されたことなどにより、10年債の発行額が平成9年度当初予算に比べて6.6兆円増額されたこと、(2)平成10年度に3次にわたる補正予算の編成を行い、10年債の発行額が平成10年度当初予算に比べ、7.9兆円増加したこと等により、平成10年度中に発行され平成20年度中に償還される10年債の発行額が40.6兆円と非常に多額に上ったからです。借換債の発行が急増した場合、国債の需給環境を悪化させ、国債の安定消化を危うくする可能性があります。このため、これまで『平成20年度問題』に対する直接の対応として、平成14年度以降、平成20年度に償還をむかえる国債の買入消却を実施してきたほか、発行年限の長期化や前倒し発行の活用による年度間の国債発行額の平準化などに取組んできました。 さらに、平成18年度において、特別会計改革、資産・債務改革、財政健全化の観点から、財政融資資金特別会計から国債整理基金特別会計に12兆円繰入れられることとなり、これを原資として、既発国債を買入消却(市中から約1兆円、財政融資資金と日銀からそれぞれ約5.5兆円)し国債残高の圧縮を図ることとなりました。この買入消却の対象の大半を平成20年度までに償還される国債とすることにより、また、上に述べた今までの国債管理政策上の努力と合わさって、『平成20年度問題』は解決されることとなりました」(p.41-42)としています。*11) 例えば、読者が旧型物価連動国債を保有していた場合、それをバイバックで財務省に売却すると同時に、新型の物価連動国債を入札で購入するなどが可能になります。消却を実施しています」と説明しています。流動性が枯渇した銘柄に対する措置という観点では、財務省は流動性供給入札も実施しています(流動性供給入札については、服部・齋藤(2023)を参照してください)。買入消却は、市場から国債を買い入れることを通じて需給バランスを改善し流動性等を向上させることを企図した政策ですが、その反対側の政策として、流動性が枯渇した国債を投資家のニーズに応じて供給する流動性供給入札と呼ばれる施策も実施されています。流動性供給入札と買入消却の関係について比較したものが図表6です。買入消却とは、いわば国債を前倒して償却するという側面を有します。そのための原資は、一般会計から国債整理基金特別会計(特会)に債務償還費として繰り入れ、国債整理基金特会を通じて買い入れを行います*8。もっとも、現在の運用では、その見合いで借換債を発行するため、ネットとしての国債供給量は変化しません。その意味で、買入消却とは、流動性が枯渇した銘柄を流動性がある銘柄に入れ替える措置とみることもできます。買入消却は、歴史的にはその使途は限定されていましたが、2003年から機動的に実施されるよう制度整備がなされました*9。その背景には、平成20年度に集中していた国債の償還の平準化(いわゆる平成20年度問題*10)などに対応することがありました。その後、2008年の金融危機時における変動利付国債と物価連動国債の流動性低下に対応するため、より一層機動的に買入消却は実施されました。また、2013年に新型物価連動国債が発行される中で、既発債から新発債への乗換需要にこたえるための追加買入が実施されました*11。図表7は物価連動国債に実施された買入消却額の推移になりますが、2008年の金融危機時に増加する一方、その後、その金額を減少させていき、物価連動国 35 ファイナンス 2024 Jan.

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