ファイナンス 2024年1月号 No.698
38/86

図表4 ブレーク・イーブン・インフレ率(BEI)の推移*4) 詳細は次回の論文で説明しますが、期中と満期の想定元本が100円とした場合の金利を計算することで実質金利が計算できます。*5) その背景として、当時の担当課長であった齋藤氏は、「我々発行当局は、品■えの観点で物価連動国債をなんとか再開、復活できないかなと考えました。その結果、フロアをつけるという形になりました。昔の物価連動国債は、インフレになれば額面が増えますし、デフレになれば額面が減って、投資家からすると額面割れになるようなリスクを伴うものになってたわけです。なので、額面割れしないように、言い換えれば、フロアをつけて、損はしない商品にしました。もちろんその分だけ、マーケットのインフレ予想を計測するという意味では不正確になる部分が出るわけですけど、それでも商品としてあった方がいいし、海外の物価連動国債を見てもフロアをつけている国があるわけですから、別に日本だけが特殊なことをするわけではありません」(齋藤・服部 2023, p.28)と指摘しています。が利用されているわけです。消費者物価指数は、家計簿にその消費を記入してもらい、典型的な財の価格をトラックすることで物価指数を構築しています。物価指数の詳細について知りたい読者は、渡辺(2022)などを参照してください。フィッシャー方程式の観点でいえば、「名目金利=実質金利+期待インフレ率」が成立します(フィッシャー2.4  物価連動国債を利用した期待インフレの測定:ブレーク・イーブン・インフレ率(BEI)前述のように、物価連動国債を発行することで、期待インフレ率を測定することが可能になります。投資家としては、例えば、10年間の投資をするにあたり、10年の名目債に投資することもできれば、10年の物価連動国債へ投資することもできます。もし高いインフレ率が実現されると予測されるなら、物価連動国債を購入したほうがよいですし、そうでない場合は、名目債を購入したほうがよいということになります。物価連動国債の価格には投資家のインフレの予想が反映されていることを踏まえれば、名目債との価格を比較することで、投資家がどの程度、将来のインフレを見込んでいるかが推測できるということになります。方程式についてはマクロ経済学のテキストなどを参照してください)。通常の国債の市場価格より「名目金利」が得られますが、物価連動国債の価格が得られれば、「実質金利」を算出することができます*4。したがって、「期待インフレ率=名目金利-実質金利」という関係から「期待インフレ率」を算出することができます。上述で算出した期待インフレ率は、名目債と物価連動国債のどちらに投資をしてもリターンが同じになる(ブレーク・イーブンになる)インフレ率と解釈できることから、ブレーク・イーブン・インフレ率(Break Even Inflation rate, BEI)を呼ばれます(BEIの時系列の推移は図表4のとおりです)。例えば10年の物価連動国債を用いて算出したBEIが2%であることの解釈は、コアCPIの上昇率が向こう10年にわたり平均2%となった場合、名目債で運用した場合と物価連動国債で運用した場合のリターンが同じになるというものです。したがって、読者が将来のコアCPIがBEIを上回ると考えるならロング、下回ると考えるならショートという形で投資判断をすることができます。もっとも、2013年以降に発行された物価連動国債には償還時の元本保証(フロア)があり、フロアの価値分だけ、BEIは期待インフレ率から乖離します*5。 33 ファイナンス 2024 Jan.

元のページ  ../index.html#38

このブックを見る