ファイナンス 2024年1月号 No.698
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https://sites.google.com/site/hattori0819/ 図表1 物価連動国債のキャッシュ・フロー利子および元本が物価(消費者物価指数)に依存100円利子利子・・・元本利子時間10年(満期)*1) 本稿の作成にあたって、様々な方に有益な助言や示唆をいただきました。本稿の意見に係る部分は筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織の見解を表すものではありません。本稿の記述における誤りは全て筆者によるものです。また本稿は、本稿で紹介する論文の正確性について何ら保証するものではありません。*2) 下記をご参照ください。 1.はじめに本稿は、物価連動国債について説明することを目的としています。我が国の物価連動国債は2004年に導入され、2008年の金融危機により一時的に発行が停止された後、2013年に再発行されました。国債発行総額からみれば、未だに小規模にとどまっていますが、近年は我が国においてもインフレ率が上昇傾向にあり、注目が集まっている国債といえます。物価連動国債は年金など長期の運用を行う主体が投資する金融商品とされ、先進国では普及しています。*12.物価連動国債の商品性2.1 物価連動国債のキャッシュ・フロー東京大学 公共政策大学院 服部 孝洋*1本稿では、物価連動国債の商品性の概要について説明します。紙面の関係上、物価連動国債を用いて算出される期待インフレ率の詳細などについては次回以降の論文で議論する予定です。本稿は日本国債や金利リスクに関する基礎的な知識をベースにしています。国債の商品性の概要は、筆者が記載した「日本国債入門」(服部, 2023)をご参照ください。筆者が記載してきた債券入門シリーズは、筆者のウェブサイトにまとめて掲載してあります*2。服部(2023)で記載しましたが、金融商品を理解するために重要なのはそのキャッシュ・フローを把握することです。図表1が物価連動国債のキャッシュ・フローです。通常の国債(名目債)と比べた際の重要な特徴は、名目債の場合、クーポンおよび元本が固定されているところ、物価連動国債の場合、利子および元本が物価に依存する点です。図表1のように、例えば、物価が高くなれば受け取る利子や元本が増加する一方、物価が低下すれば利子や元本が減少するという商品性になっています。このような商品性は、インフレが起こった場合のリスクをヘッジする機能をもたらします。例えば、名目債の金利が1%の場合、期中に1円を受け取り、満期で100円受け取ることになりますが、仮に毎年1%のインフレがおきたとしたら、同じ1円を受け取ったとしても、その購買力が低下することになります。これがインフレに伴うリスクになります。その一方、物価連動国債の場合、利子や元本が物価に連動するため、インフレに伴い利子や元本が増えますから、インフレリスクをヘッジすることができます。そのため、物価連動国債は、年金など長期の運用を行っている投資家がインフレリスクをヘッジすることを可能にする金融商品として説明される傾向にあります。図表2が財務省のウェブサイトに記載されている物価連動国債のキャッシュ・フローです。左側に記載されているとおり、当初100億円の支払いがありますが、想定元金額が物価(ここではCPIとありますが後述しま 31 ファイナンス 2024 Jan.物価連動国債入門ー基礎編ー

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