ファイナンス 2024年1月号 No.698
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*1) 開発をめぐる諸問題について、世界銀行・IMFに勧告および報告を行うことを目的として1974年に設立。以降、春・秋の年2回開催。今回は第108*2) 新たなビジョンは、「居住可能な地球で貧困の無い世界を創る」。新たなミッションは、「居住可能な地球で極度の貧困を撲滅し繁栄の共有を促進する」。*3) 気候変動への適応及び緩和、脆弱性及び紛争、パンデミックの予防及び備え、エネルギーへのアクセス、食料・栄養安全保障、水の安全保障及びアク回目。セス、可能性を広げるデジタル化、生物多様性及び自然の保全。以下、発出された成果文書の概要について紹介したい。IMFCにおける議論の結果はコミュニケとして発出されることとなっているが、2021年10月の会合以来、ロシア非難の文言を巡って加盟国間で合意が得られず、コミュニケは発出されていない。今回の会合においても、各国間で粘り強い調整と交渉が続けられたものの、ロシア非難の文言を巡る意見の相違により、コミュニケ発出の合意には至らず、G20デリー首脳宣言を引用したうえで、ほとんどの加盟国がロシアによる戦争を非難した旨を記載し、議長声明として発出された。IMF改革については、第16次クォータ一般見直しを本年12月15日の期限までに完了するとのコミットメントを再確認するとともに、「有意義なクォータ増資」を行うことに合意した。また、IMFの各種融資制度の見直しや、サブサハラ・アフリカ地域のために25番目のIMF理事を設けること等、IMFの機能・ガバナンスの強化に取組むことにも合意した。世界銀行・IMF合同開発委員会*1では、世銀改革について議論が行われた。世銀改革とは、地球規模課題への対応強化を目的に、世界銀行のビジョンとミッション、業務モデル、財務モデルの見直しを図る一連の取組のことで、前回4月の開発委員会に続き議題に設定された。以下、成果文書の概要について紹介したい。今回は、上述のIMFCと同様の経緯によりコミュニケ発出の合意には至らず、前回に引き続き議長声明としての発表となった。同声明では、まず、「居住可能な地球(livable planet)」という新たな要素が追加された、世界銀行の新たなビジョンとミッション*2への支持が表明された。業務モデルの見直しでは、8つの地球規模課題*3への合意含め、国別支援モデルの強化が確認された。財務モデルについては、ドナー国が世界銀行の融資全体に保証を提供するポートフォリオ保証プラットフォーム(PGP)や、ハイブリッド資本といった新たな金融手法が開発され、世界銀行の融資能力を強化するものであることが認識された。また、国際金融公社(IFC)及び多数国間投資保証機関(MIGA)による取組を含め、民間資金動員強化に向けた提案などが歓迎された。次回会合に向けては、中所得国が地球規模課題に取り組むための譲許的資金の配分原則の策定をはじめ、世界銀行がより良く、より大きく、より効果的な銀行になるための改革を更に進めていくことが合意された。さらに、低所得国支援を拡大するための野心的な国際開発協会(IDA)第21次増資の必要性も認識された。日本国ステートメントでは、ロシアによるウクライナ侵略を非難しつつ、今後もウクライナの財政・復興需要に対応していくため、世界銀行グループと連携しながら支援を行うことを表明した。また、「極度の貧困の撲滅」と「繁栄の共有」という二大目標を維持しつつ、これらと地球規模課題への対応との相互補完関係を明確化した新しいビジョンとミッションを歓迎した。さらに、PGPが資本と同様にレバレッジ効果を持つ点も踏まえ、PGPへの拠出を通じ、数十億ドル規模の融資余力の拡大に貢献する用意がある旨を表明し、日本として世銀改革を後押しする姿勢を示した。年次総会の機会に、G7議長国として日本が策定を主導してきたRISE(Resilient and Inclusive Supply‐Chain Enhancement)を公式に立ち上げるための大臣級イベントを世界銀行と共催した。RISEはサプライチェーン強靱化に向けた新たなイニシアチブであり、今後世界的に需要の大幅な増加が見込まれるクリーンエネルギー関連製品のサプライチェーンにおいて、低・中所得国がより大きな役割を果たせるよう協力する取組である。本イベントでは、鈴木財務大臣と世界銀行のバンガ総裁の共催のもと、韓国、カナダ、インド、チリ、イタリアの代表が参加し、RISEの創設を宣言するとと(2023年10月12日)5  「RISE(強■で包摂的なサプライチェーンの強化)に向けたパートナーシップ」の 立上げイベント(2023年10月11日)4  世界銀行・IMF合同開発委員会(DC) 29 ファイナンス 2024 Jan.

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