ファイナンス 2023年12月号 No.697
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ファイナンス 2023 Dec. 65令和5年度職員トップセミナー5.手続きや形式としての権力と実質的な権力ただし、ここで一つポイントがあります。権力というのは「手続きや形式としての権力」と「実質的な権力」の二つに分かれるのです。「手続きや形式としての権力」というのは、それを握っても、部下が言うことを聞いてくれるかどうかわからないのです。面従腹背でこちらが言ったことがみんな流されてしまう状況になることもあるのです。6.実質的な権力の源泉ここに書いてあるのは、「法やルールなんて私たちには関係ないでしょ、私は君主の身内なのよ」と言い始める人たちです。権力を握っている人や握っているらしい人に「法やルールなんて関係ないわ」と言われると、部下としては抗えないのです。ではどうしたら法やルールを守らせることができるのか? ここで必要なのが権力だ、と「韓非子」では考えるのです。「韓非子」にとっての権力は、例えば、虎の爪なのです。虎は爪を持っているから、他の獣たちに言うことを聞かせることができる。しかし他の獣たちからは言うことを聞かせられない、この一方的な関係を作れることを権力と言っているわけです。そこで「実質的な権力」というものが必要になります。その源泉はいくつかあります。まず、軍事力や裁判権です。言うことを聞けば生かしておくし、言うことを聞かないと殺す、と言って相手を従わせるわけです。財力もそうです。言うことを聞けばお金をあげる、言うことを聞かないとあげない、と言って相手をコントロールするのです。現在の組織だと人事権が重要です。言うことを聞けば出世させる、言うことを聞かないと左遷やクビだ、と言って、従わせるのです。また最近よく使われるのが情報です。言うことを聞けば教える、あるいはまずいことを黙っていてやるし、言うことを聞かないと教えない、ばらしちゃうぞ、と言って、従わせるのです。さらに依存関係もそうです。言うことを聞けば依存させてあげる、言うことを聞かないと、依存させない、と言って、従わせるのです。「実質的な権力」は賞罰、飴と鞭をうまく使って相手従わせるのです。現代だと軍事力、裁判権はあまり出てこなくて、ポイントは財力と人事権になるわけです。これを握れば言うことを聞かせられるのです。この権力を使って、まずは、ビシッと組織をまとめて、かつ成果も上げさせようというのが「韓非子」の考え方です。「韓非子」には「賞と罰をうまく使うことによって、こちらは相手の言うことを聞かせられるが、相手からは言うことを聞かせられないという環境を作って、うまく組織をまとめて成果も上げさせなさい」ということが書いてあります。これは四字熟語の「信賞必罰」と非常に近くなります。信賞必罰には一つの原理原則があります。「みせしめに殺すなら、なるべく位の高い者がよい。また、賞を与えるなら、なるべく地位の低い者がよい(これを殺すは大を貴び、これを賞するは小を貴ぶ)」(尉繚子)こうすれば宣伝効果が上がるから、法というものがきちんと公正に適用されている象徴になるからと、このように考えるわけです。この「韓非子」という古典は、実は時代を二千年以上先先んじている面があるのです。どういうことかというと、ピーター・ドラッカーが20世紀になって言い始めた「目標管理制度」というやり方を二千年以上前から唱えているところがあるのです。「韓非子」には次のように書かれています。「部下の悪事を防ごうとするならば、トップは部下に対して「刑」と「名」、すなわち申告と実績の一致を求めなければならない。まず部下がこれだけのことをしますと申告する。そこでトップは、その申告に基づいて仕事を与え、その仕事にふさわしい実績を求める。実績が仕事にふさわしく、それが申告と一致すれば、賞を与える。逆に、実績が仕事にふさわしくなく、申告と一致しなければ、罰を加える。」これを「形名参同」と言いますが、ドラッカーが20世紀になって唱えた「目標管理制度」ないしは「会社7.刑名参同:目標管理制度

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