ファイナンス 2023 Dec. 63令和5年度職員トップセミナーこの「和」の組織が成り立つためには、外形的な要素と内実的な要素の両方にいくつかの条件が必要となります。まず外形的な絶対条件としては、徳あるトップが真ん中にいることです。部下たちは適材適所に配置されているため、その周りを円滑に回っているのだと、中国古典では考えるのです。例えば、「書経」という古典にも「部下一人一人を適材適所していくのが、上に立つ人間の役割なのだ」と書かれています。では、適材適所というのはどう行うのか? 原理原則は一つです。すなわち、「その長所だけを見て、短所は忘れてやる。」です。これは、人使いの名人と称された三国志の孫権の台詞です。この「長所を見て適材適所を行う」というのは、そのとおりですが、一つ条件があります。それは、ポストが豊富に存在するということです。もし、ポストが少ない、またはそういった余裕がない状況であれば、誰を組織に入れるのか、不適切な人は外すのか、ということにならざるを得ないのです。この「和」の組織は理想的な状態とも言えるのですが、「和」の組織がうまく機能しなくなる場合も多いです。パターンはいくつかあります。第一に、有徳者が続かなくなってしまうことです。真ん中に徳のあるトップやリーダーがいるからこそ、「和」の組織は機能するのです。ある時点では徳のあるトップかもしれません。しかし、その後継者、さらに次の後継者となるにつれて、徳のない人が真ん中に座ることもあり得ます。そうなると、こういったタイプの組織は崩れてしまう可能性があるのです。第二に、徳のある人が、権力を持ち続けることによって、徳のない人に変わってしまうというパターンです。さらに第三として、この組織が現場に依存している場合、現場が暴走すると、その暴走も止められなくなるという状況が生じます。なぜならば、基本的には信頼関係でしか繋がっていないからです。すると「同」に引っ張られるのです。「和」と「同」の違いの根本は、その組織が何を目的にしているかによる違いから説明できます。「和」というのは、その組織が目指すべきものが組織の外にきちんと立っている状態のことを言います。これに対して「同」は組織自体が目的化してしまった姿なのです。この組織にぶら下がっていたい、この組織で今の地位を維持したいと思うのであれば、実力者に忖度して、実力者が白いものを黒だと言えば、「黒です」と言っていた方が、生き残りやすくなるわけです。こういう違いがあるのです。なぜ「和」が「同」に引っ張られていくのか。それは、組織が大きくなって安定してくると、「安定しているから」という理由で、組織に入る人が増えてしまうからです。どうしても「同」の方に、守りに入っていくことが起こるのです。名門企業の再生に活躍したコーポレート・ガバナンスの研究者、小城武彦さんが書いた「衰退の法則」という本の中にも、「同」に近づけば近づくほど、名門6.「和」と「同」「論語」には、「君子は和して同ぜず、小人は同じて和せず」という有名な言葉があります。「和」と「同」は何が違うのでしょうか?「和」というのは、お互いに意見すべきときは意見し、諫言すべきところは諫言しつつ、最後には協調できる態度のことです。「同」というのは同質化のことで、親分が白いものを黒だと言えば、部下も「黒です」と言うようなことです。この組織は、良いときは「和」なのですけど、下手3.「和」の組織の外形的な条件4.「和」の組織の内実的な条件「和」の組織では、まず、部下の適材適所を行うのですが、部下がトップを信頼し、尊敬しないとうまく機能しない、と考えます。また、お互いに育み合い、生かし合い、そして上に対して諫言することができて、初めて「和」の組織ということができるのです。孔子は「とにかく、上には正しい情報を上げろ」と言っています。同時に「言うべきことは徹底して強く主張しろ、これが下のあるべき姿だ」とも言っています。これが「和」の組織の内実なのです。5.「和」の組織の問題点
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