ファイナンス 2023年12月号 No.697
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まず、「徳治」と言われる考え方があります。これは徳のあるリーダー、すなわち非常に人格者で、器が大きいイメージでよいと思いますが、こうした人が組織の真ん中にいて、組織をまとめていきましょうという考え方です。この考え方を代表する古典が「論語」です。一方、これと真逆に「中国式」法治という考え方があります。これは、人の属性に頼っていると良い組織はできないから、法と権力でうまく組織を一つにまとめて、成果を上げさせるのがよい、という思想です。これを代表的する古典が「韓非子」です。この「徳治」と「法治」には当然強みと弱みがあります。それぞれの強みと弱みは何か。最終的には二つのハイブリッドが良い、ということになるのですが、ではどうやったらハイブリッドにできるのかという話へ進んでいきます。実は、中国の歴史的な統治方法というのは「中国式」法治なのです。現在の中国を考える上でも参考になる面がありますので、後ほど「中国式」法治の歴史的な意味についてもお話をします。まず、「徳治」の話から始めますが、「論語」の基本はじめに:「徳治」と「中国式」法治ご紹介にあずかりました守屋と申します。今日のテーマは、中国古典から学ぶ良い組織の形成についてです。中国古典の中には、これが良い組織だという対極的な考え方があるのです。A.徳治(論語)1.孔子が求める理想的な組織とは的な話をします。「論語」は今から約二千五百年前、中国の春秋時代末期に活躍した孔子(本名:孔丘、字:仲尼)とその弟子たちの言行録です。「論語」は孔子が書いた、と言いたくなるのですが、孔子は書いておりません。孔子の死後、約百年が経過し、その教えがバラバラになってしまうことを恐れた孫弟子や曾孫弟子たちが集まり、「論語」を編集した。これが「論語」の最初の形だと言われています。この「論語」の中で、孔子は理想的な組織について次のようなことを言っています。「徳を持った人が組織の真ん中にいる。その周りには部下が星々のように存在する。部下たちは徳を持った真ん中のリーダーやトップに対して、信用や尊敬、憧れを抱く。このお互いの信頼関係から、美しい天体のような組織を作っていく」これが孔子の理想とした組織で、これを「和」の組織と言ったりもします。徳というのは、基本的に、社会的な役割を果たすために必要なスキルや人格、行動規範を指します。もし自分に不足していれば、後から身につけることが可能です。一方、天から元々与えられているものもあります。それが「性」です。あえて訳すと「らしさ」になります。この「らしさ」を基にして、自分の進むべき道を決め、そこで社会的に与えられた役割を果たしていくために、後から身につけていくのが「徳」であると考えると非常に分かりやすいですね。令和5年9月20日(水)開催2. 後から身に着けるもの/天から与えられたもの 62 ファイナンス 2023 Dec.講師演題令和5年度職員トップセミナー守屋 淳守屋 淳 氏 氏(作家、中国古典研究家 (作家、中国古典研究家 グロービス経営大学院特任教授)グロービス経営大学院特任教授)「論語」と「韓非子」に「論語」と「韓非子」に学ぶ組織論学ぶ組織論

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