ファイナンス 2023年12月号 No.697
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𝑓𝑓𝑋𝑋𝑦𝑦𝑓𝑓𝑌𝑌𝑦𝑦,𝑓𝑓𝑋𝑋𝑦𝑦𝑓𝑓𝑌𝑌𝑦𝑦𝑦𝑦∗出所:Alvaredo, et al.(2021), Figure 5.2注: 横軸は所得水準、縦軸は度数を表す。青い実線は統計調査データを使用した場合の所得分布fX(y)を表す。赤い点線は税務データを使用した場合の所得分布fY(y)を表す。income𝑦𝑦0図1:統計調査データと税務データの接合に関するイメージは統計調査の方法や税制を踏まえることが重要です。例えば、所得に関する統計調査データとして、日本では『全国家計構造調査』の個票データを利用することが可能ですが、そこで調査対象とされている所得や収入がどのような定義によるものかを正確に理解する必要があります。また、税務データについては、国税庁が公表している『統計年報』や『申告所得税標本調査』のデータや、税務大学校において実施されている共同研究の結果として利用可能となっているデータを用いることが可能ですが、それぞれのデータが、どのような範囲の所得や収入を対象としているものなのかを、税制等を踏まえて、正確に理解する必要があります。前に述べたように、統計調査データでは超高所得層の所得が正確に記入されていない傾向がある一方、税務データでは超高所得層についてより正確な情報を得られることから、「データの接合」を行い、合わせて1つの分布にするものです。具体的には、Blanchet et al.(2021)において示されているように、統計調査データの個票データに対して「観測値の置き換え(replacing)」と「ウェイトの再調整(reweighting)」という2つの作業を行います。図1は2つのデータの接合方法のイメージを表しています。横軸は所得水準(y)、縦軸は当該所得の該当者数(度数)を表しています。実線で表されたfX(y)は統計調査データを使用した場合の所得分布、点線で表されたfY(y)は税務データを使用した場合の所得分布を表しています。税務データは高所得層のみ観察可能ですが、高所得層については調査統計よりも正しく把握できるため、所得水準がy*よりも高い領域においては、税務統計の度数は調査統計の度数よりも高くなります。y*は調査統計の所得分布fX(y)と税務統計の所得分布fY(y)が交差するときの所得水準です。このy*よりも所得水準が高い領域と低い領域で別途の作業を行います。y*よりも所得水準が高い領域では、まず超高所得層の個人(観測値)が欠落していることを補完するため、標本調査のサンプルとなっている各個人の所得水準を高めるような置き換え(replacing)を行います。また、税務統計の所得分布を反映するように、各所得水準の度数を上昇させるようにウェイトの再調整(reweighting)を行います。標本調査ではサンプルとなっている各個人の所得を単純に集計しても、全国の所得分布(母集団)を再現することはできません。データ上、各個人にはそれぞれ集計用ウェイトが割り当てられており、集計の際にそれを利用しますが、「ウェイトの再調整」とはこの集計用ウェイトを変更することを指します。他方、y*よりも所得水準が低い領域では、各所得水準の度数を低下させるようにウェイトの再調整を行います。作業上はこれらの調整を行いながら連続的な所得分布となるように、接合点となる所得水準y-(これをmerging pointを呼ぶ)、置き換え後の所得水準、調整後のウェイトを求めたのち、超高所得層を含むように補正された統計調査データを構築します。DINAガイドラインでは、国際比較を可能にするため、一国全体の国民純所得に関する分布を計測することとしています。しかし、2.2節で述べたプロセスにおいて用いられる統計調査データや税務データは、そのままミクロ(個人)の所得を集計しても、マクロの国民純所得とは一致しません。それは、統計調査データや税務データには含まれていない家計の収入(資本所得など)や、帰属計算によって推計される家計所得(持ち家の帰属家賃)があるほか、家計に直接配分されない法人企業の内部留保なども、国民純所得には含まれるからです。それゆえ、2.2節で計算されたデータに、さらにこれらの所得項目を加算していく必要があります。表1はDINAガイドラインで列挙されている所得項目と、そこで推奨している所得の各個人への振り分け2.3 その他の所得 58 ファイナンス 2023 Dec.ത𝑦𝑦

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