(注)2019年5月までは要求払預金金利の値。2019年6月からはスイス・フラン翌日物銀行間取引金利(Swiss Average Rate Overnight:SARON)の目標の水準(SNBポリシーレート)。(出所)ブルームバーグから入手したデータにより筆者作成。2.01.51.00.50.0▲0.5▲1.02014201520162017201820192020202120222023*1) スイス無制限介入策が突如終了 〜フラン急騰、中銀の信認に傷 2015年1月16日 ニッセイ基礎研究所 上野 剛志 ファイナンス 2023 Dec. 472022年9月、スイス中央銀行は物価高を背景に2015年から続けていた、いわゆるマイナス金利政策を終了した。一方、日本銀行はマイナス金利を足元(2023年11月時点)継続しており、動向が注目される。本稿では、スイス中央銀行がマイナス金利政策を導入してから終了するまでの過程を紹介し、動向を概観する。スイスでは、欧州債務危機を背景にフラン高ユーロ安が進行し、これがスイス経済に「深刻な脅威となり、デフレーションのリスクが高まった」*1。そして、この対応として、スイス中央銀行は、2011年9月から、スイス・フランのユーロに対する為替レートについて1ユーロ=1.20スイス・フランを上限とし、これを超えてスイス・フランが上昇した時は無制限に為替介入を行うこととした。ただ、スイス中央銀行は2015年1月、臨時で開催した金融政策決定会合において、上限の撤廃(無制限の為替介入を行わないこと)を発表した。上限を撤廃する理由についてスイス中央銀行は声明で、「この例外的かつ一時的な手段がスイス経済を深刻な打撃から保護した」とし、スイス・フラン相場については「依然として高いものの、スイス・フランが過大に評価されていたところ上限を設定して以降は過大な評価が弱まった」、「ユーロが対ドルで下落し、その結果、スイス・フランが対ドルで減価した。こうした状況下、スイス中央銀行は対ユーロで上限設定はもはや正当化されない」と説明した。無制限の為替介入を行わないこととしたことに先立ち、スイス中央銀行はマイナス金利の導入を2014年12月に発表した。(適用は2015年1月から、当時0.0%の政策金利をマイナス0.75%に引き下げた。)スイス・フラン対ユーロ相場上限の撤廃後は、スイス中央銀行は、マイナス金利政策と無制限ではない為替介入の組み合わせによりスイス・フラン高に対処した。なお、マイナス金利の導入については、2015年1月の声明において、「スイス・フランの対ユーロ相場の上限の撤廃が金融政策において不適切な引締めとならないよう政策金利を引き下げた」と説明した。スイス中央銀行は、2015年1月からマイナス金利政策を継続したところ、物価の上昇を背景に2022年、6月会合(マイナス0.75%→マイナス0.25%)、9月会合(マイナス0.25%→プラス0.5%)と2会合連続で政策金利の引き上げを行い、これによりマイナス金利政策を終了した。【図表1】【図表2】なお、マイナス金利政策の終了の目的について声明で「物価の上昇が国内の商品やサービスに広く波及することを防ぐことである」と説明した。【図表1】スイスの政策金利(%)1.はじめに2.近年のスイスにおける金融政策の変遷海外経済の潮流 147大臣官房総合政策課 海外経済調査係 華田 峻佑スイスのマイナス金利政策
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