ファイナンス 2023年12月号 No.697
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給付日5/165/235/306/66/136/206/277/47/11(direct deposit)SSN下2桁給付日5/25/95/1600-2021-7576-99*2) Broda and Parker(2014)Table 1を参照*3) Parker et al(2013)も2008年給付に関する類似の研究であり、米国政府のBureau of Labor Statisticsが実施しているConsumer Expenditure Surveyを利用している。*4) 2008年給付のような政策が順々に実行されるため政策効果を受けていない人が最終的に存在しなくなる場合、staggered DIDやEvent studyと呼ばれる種類のDIDを用いる。*5) Broda and Parker(2014)Table 5 Panel Aを参照。*6) 2ヶ月分の収入に相当する現金あるいは現金化可能な資産があるかという二択式のアンケートを実施した。約36%の世帯がないと回答。銀行振込(paper check)SSN下2桁00-0910-1819-2526-3839-5152-6364-7576-8788-99小切手 図表1:給付のタイミングの決定方法*2ファイナンス 2023 Dec. 31ヘリコプターマネー批判のその先へBroda and Parker(2014)が行った検証Broda and Parker(2014)は2008年給付がどれだけ消費に回ったかを検証したものであり、その後の同種の研究においてパイオニア的な研究*3である。Broda and Parker(2014)は受給者の消費行動を測定するため、2008年の21,760世帯のデータで構成されたNielsen’s Consumer Panel(NCP)を用いた。NCPは調査に参加している消費者が購入した商品のバーコードを自身で逐次読みとることで、どのような属性の消費者がどのような商品にどれだけの金額を消費しているか捕捉する調査である。NCPの調査の対象となる財は食料品等の非耐久消費財であり、これらの財は家計の消費額全体の約15%をカバーしているとされる。Broda and Parker(2014)は2008年給付が耐久消費財を含んだすべての財における消費活動に与えた影響を捉えるため、先行研究で提示されている複数の手法を使い、NCPを用いて得られた非耐久消費財の消費における政策効果をスケーリングすることで最終的な政策効果を導いた。Broda and Parker(2014)は上記のデータをもとにDifference in Difference(DID)という手法を用いて消費に与えた影響を検証した。DIDの基本的な考え方は、政策効果を受けた人と受けなかった人を比べて、その差分が政策の効果によるものと推定する至ってシンプルなものである。他方、この方法が政策効果を識別するためには、政策効果を受けた人がランダムに選ばれていなくてはいけない。たとえば高等教育の効果を図るために高等教育を受けた人と受けなかった人の収入を無造作に比べても、高等教育を受けた人は概して両親の所得や教育水準が高いので公平な比較にならない。2008年給付においては社会保障番号の下二桁に応じて給付のタイミングが決定されたことを利用して比較の公平性を担保している*4。以上の通り、Broda and Parker(2014)は2008年給付について比較的高い政策効果の存在を示唆した。他方、Borusyak et al(2023)は、従来の手法がはらむ統計的な問題点を指摘し、実際は同研究が示唆した政策効果の半分程度しかなかったと指摘した。Borusyak et al(2023)は、まず2008年給付のような政策の効果が政策の実施時点から時間の経過に従って変動することを改めて指摘した。確かに、直感的にも実証研究の結果を見ても、現金給付の直後が最も消費に与える効果が大きく、時間が経つにつれて効果が小さくなっていく傾向にあることは共通見解といえよ2008年給付はどれくらい消費に回った?Broda and Parker(2014)は、2008年給付が各人に到達した後3ヶ月の間に、給付された金額のうち平均して50%から74%が消費に回るという見解*5を示した。この見解は直感的には比較的高い割合であるように思える。なお、「50%から74%」という幅の広さは、先述したNCPを使って測られた非耐久消費財における効果を全体の財についてスケールする際にどの手法を用いたかによって生じたものである。また、本研究では取り崩せる貯金が十分にある世帯とない世帯をアンケート*6によってグループ分けし、十分な貯金を持たない世帯は十分な貯金を持つ世帯の2倍以上の金額を消費に回すことを示した。このように、どのような世帯が現金給付の効果を大きく受けるのかについて理解を深めることは、現金給付の対象世帯を一定の条件を満たす世帯に制限するなどのアイデアにつながる。

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