ファイナンス 2023年12月号 No.697
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PHS)つけてどこでもつながるようにした。 ファイナンス 2023 Dec. 29国の危機管理最前線ローチは行われている。経済学のアプローチとして、近年流行の「サステナブルファイナンス」(新たな産業・社会構造への転換を促し、持続可能な社会を実現するための金融:金融庁のサステナブルファイナンス有識者会議第三次報告書より)を活用できないか。サステナブルファイナンスの一般的な特徴は環境・社会・ガバナンスへの配慮にあるが、サステナブルファイナンスの中でも最近特に注目されている「インパクトファイナンス」は、環境・社会・ガバナンスへの配慮にとどまらず、環境・社会・ガバナンス面の具体的な効果(インパクト)の創出を目的とする。また、収益を全く目的としない一般的寄付はインパクトファイナンスに該当しないが、収益が一般的な収益率を下回る(場合もある)ことは許容されるという。「首都中枢機能の維持を図り、国民生活及び国民経済に及ぼす影響を最小化する」ことがインパクトの名に値することは疑いないと信じる。先ず首都直下地震について。住宅の耐火工事は現に進められているが一朝一夕には木造住宅は減らない。他方、首都圏の中でも東京23区では、バスを含めた公共交通機関のみで出勤・通学など生活上必須な移動は基本的に可能なので、特段の事情のない限りはマイカー保有者の心一つでマイカーを減らせそうである。議論のたたき台としての一案となるが、東京23区を対象に、マイカーの購入ローンの抑制と駐車場の無い・少ない住宅の購入ローンの促進とをセットにしたインパクトファイナンスを検討できないだろうか。次に首都風水害について。諸外国では水関連のサステナブルファイナンスの実例もあるようなので、流域治水の推進を目的とするインパクトファイナンスの検討が進むことに期待を寄せる。また、集水域と氾濫域との交流や話し合いの方法として、地震、風水害のリスクに長期間にわたって直面することとなる若い世代同士の議論が重要であり、そうした議論が冷静かつ自由闊達に行われるためにも、SDPsを含め大学教育での動きに注目したい。なお、大学教育については、金融庁のサステナブルファイナンス有識者会議もサステナブルファイナンス普及のための人材育成の観点から関心を有しているようである。想像するに、地震や風水害は頻度が少ないのでファイナンスの案件になりにくく好事例が蓄積していないと思われるが、頻度の少ない、いつ起こるかわからない大災害こそ正真正銘深刻な社会課題であり、関係者の英知結集を切に願いたい。一方で、伝統文化・産業の衰退が懸念され、人材育成や財政的支援が叫ばれることも増えてきた。筆者は日本の伝統文化・産業の重要な一分野である日本酒・焼酎を愛好するものの、道路、公共交通、医療といった生きるために不可欠な社会基盤と対比すれば「酒は飲まなくても、すぐに生死に影響しない」ので、突き詰めると社会での優先順位は高くないと言わざるを得ない。今のままでは酒の消費が減り、酒造りの担い手も確保できず、酒の文化・産業が一層衰退する恐れさえある。従来の思考、行動では未来予想図は描けず、「ぜひ飲み続けたい」、「ここで、ぜひ働きたい」と思わせる酒造りへ転換しないと生産者・販売者にとっても消費者にとっても未来は明るくないと思う。最後に「指揮心得」に戻ろう。「指揮心得」の巻頭に太字で大書された二つのメッセージは危機管理のマニュアル本や講演で引用されることも多い。「備えていたことしか、役には立たなかった。」「備えていただけでは、十分ではなかった。」筆者としては、「指揮心得」の各章にちりばめられたメッセージも滋味に富んでいると思うので、そのいくつかの内容を本稿の結びに代えて紹介したい。● 幹部個室はロッカー、プリンタが少ないので地震の被害が少なく、幹部は負傷者の可能性に気づかなかった。そのため初動指示で負傷者把握等が抜けた。● 情報が上がってこないことも深刻な被害発生を示唆する貴重な情報。● 東北地方整備局長は首に携帯3つ(私用、公用、● 泊まり込む習慣を止めよ。部下を休ませるのも指揮官の仕事。中年の指揮官の最大の敵は疲労。6 おわりに昨今の人手不足、物価上昇で、道路、公共交通、医療といった生きるために不可欠な社会基盤からも「このままでは持続できない」と悲鳴が上がる。最近参加したNEXCO東日本OB会での社長挨拶も「人材」一色だった。最近視察した羽田空港は2010年に新管制塔を供用したが、バックアップのために旧管制塔も新管制塔と同一の最新設備を維持しているとのことで、人材・金銭面の負荷が大きいことが窺われる。

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