車両を移動しやむを得ない限度での破損を容認し補償も整備すること、(3)やむを得ない必要がある時、道路管理者は他人の土地の一時使用、竹木その他の障害物の処分が可能になることが措置された。このように緊急車両の通行を確保するための法整備は進んだものの、首都圏の大量の自動車を想起すると、現実の実効性は果たしてどうだろうか。加えて、普及進行中の電気自動車が現行のガソリン車より大きく・重くなる傾向にあることも気になる。終戦直後の昭和22年9月に関東・東北地方を襲った「カスリーン台風」は、関東北部では土石流等の土砂災害を、東北地方と関東南部では河川の氾濫による大規模な浸水被害をもたらした。死者1000人超、行方不明者800人超、負傷者1500人超、住宅損壊約9300棟、浸水約38.5万棟、罹災者数40万人超の甚大な被害を記録している。首都圏の浸水エリアは、埼玉県の東部から東京都の足立区東半分、葛飾区全域、江戸川区ほぼ全域に及んだ。この浸水エリアは、江戸の洪水対策と舟運発展とを目的とした利根川の東京湾方面から太平洋方面への付け替え前の旧利根川流域そのものである。カスリーン台風を契機に法制やインフラの整備が進むに従い、大規模な水災の頻度は減少しているものの、ダムや堤防に守られていることで浸水リスクが高いエリアも住宅地として開発されるようになった。また、大都市近郊では地面はアスファルトやコンクリートで覆われるようになり、雨水は地中へ浸透せず、下水道と河川に集中している。加えて近年では、気候変動の影響もあり、豪雨災害の激甚化・頻発化が目立つ。首都直下地震の場合と同様、首都中枢機能の維持を図り、国民生活及び国民経済に及ぼす影響を最小化するため、想定外の過酷な豪雨災害こそ想定しなければならない。こうした状況に対応すべく新たに始まった「流域治水」とは、従来の河川管理者や下水道管理者による水4 首都風水害首都風水害は首都直下地震に比べ議論されていないきらいがあるが、首都機能への現実の脅威である。以下のカスリーン台風、流域治水の記述は内閣府(防災担当)発行の広報誌「ぼうさい」に多くを負う。害対策にとどまらず、河川の流域全体を俯瞰して、「集水域」(雨水が河川に流入する地域)から「氾濫域」(河川等の氾濫により浸水が想定される地域)にわたり、流域に関わる自治体や企業、住民など、河川流域に関わる者すべてで行う水害対策を指す。流域治水の具体例として、集水域のダムや氾濫域の堤防の整備だけでなく、集水域の遊水地や雨水貯留施設の整備、氾濫域の住宅地の水害リスクに関する情報共有や移転促進などがある。政府も、関係省庁が垣根を越えて緊密な連携・協力を進めるべく「流域治水の推進に向けた関係省庁実務者会議」を立ち上げた。しかしながら、氾濫域に比べ、集水域の動きは遅いといわれる。直接浸水被害を受けるわけではない集水域の大多数の居住者に、下流の氾濫域での浸水を自分事と捉えて対策を行うことをいかに理解してもらうのか。流域治水の普及に向けては、様々なルールづくりは勿論、集水域と氾濫域との交流や話し合いにより信頼関係を築くことも重要になる。本稿の準備も兼ね、最近、利根川下流域の佐原エリアを視察した。満々と水を湛えた水面は大変に美しいが、危機管理の観点からは風水害の予兆と映る。SDPsの趣意書は「人類が地球で暮らし続けていくために、2030年までに達成すべき17の目標としてSDGsがあります。その先に続く未来を考えた時、例えばエネルギー問題であれば、単に工学的な技術開発だけでなく環境学・経済学・法学・社会学・哲学など様々な学術分野を取り込んで問題解決を図る必要があります。そこでSDPsでは、2030年目標であるSDGsの視点を踏まえつつ、2050年のエネルギー・社会問題を見通せる眼力と問題抽出・解決能力の基礎スキルを備えた人財を育成します。」と謳っている。様々な学術分野を取り込んで問題解決を図ろうとするSDPsの理念が地震、風水害でも活用できないだろうか、つらつらと考えた。地震も風水害も、すでに見た通り工学、法学のアプ5 工学、法学、そして経済学の出番話は変わるが先日、名古屋大学の法学・経済学・工学研究科合同のSDPs(Super Degree Programs:明るい未来社会を創る「名大からの人」育成プロジェクト)の一コマを受け持って国の危機管理について講義する機会に恵まれた。 28 ファイナンス 2023 Dec.
元のページ ../index.html#32