ファイナンス 2023年12月号 No.697
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ファイナンス 2023 Dec. 27国の危機管理最前線たことに加え、テレワーク対応のように新型コロナウイルス感染症対応から得られた教訓をも改正に反映する必要があったことが大きい。厳しい予算・定員事情のもと、危機管理ラインは少数精鋭で使命感に静かに燃えて日々任務に当たっている。1年間の感謝を込めて。こうした中、首都中枢機能の維持を図り、国民生活及び国民経済に及ぼす影響を最小化するための鍵は何か。ここでは国土交通省東北地方整備局「東日本大震災の実体験に基づく災害初動期指揮心得」(以下「指揮心得」)でも「基本のキ」とされている「道路啓開(けいかい)」に焦点を当てる。道路啓開とは、大規模災害時に道路の応急復旧を実施する前に、自衛隊や救急医療チームが被災地に入れるよう、最低限の瓦礫処理や簡易な段差修正等により救援ルートを確保することを指す。東日本大震災での道路啓開は、国道を管理する国土交通省と東北道を管理するNEXCO東日本との連携により、南北方向の東北道と国道4号から、沿岸部に向けて東方向に伸びる何本もの国道を、救援ルート確保に向けて切り開く作戦が採られた。この「くしの歯作戦」も現在は有名だが、当時道路啓開は道路に関わる職員にとっても稀な活動ゆえ日常意識されず、東日本大震災発災当時の東北地方整備局防災業務計画にも道路啓開への言及はなかったという。要は道路啓開も十数年前は「想定外」だった。東日本大震災の経験を受けて、全国で道路啓開作戦を策定することとなった。首都圏の道路啓開作戦である「八方向作戦」とは、首都直下地震が発生した場合、都心部では幹線道路の深刻な渋滞等が発生し、緊急車両の移動が阻害されるおそれがあることから、関係機関が連携し、八方向(北、北西、西、南西、南、南東、東、北東)毎に発災後の迅速かつ的確な道路啓開を実施する作戦である。八方向の道路啓開はどれも重要であるが、特別な意味を持つのが西方向の道路啓開と言えよう。政府3 首都直下地震国の地震調査委員会は令和5年1月時点で、首都直下地震で想定されるマグニチュード7程度の地震の30年以内の発生確率は70%程度と予測している。BCPは、総理大臣官邸が使用できない場合、(1)中央合同庁舎第8号館、(2)防衛省、(3)立川広域防災基地の順序に従い移転すると定めるからである。都心から西方向に適度な距離があり都心との同時被災が考えにくい立川広域防災基地は映画「シン・ゴジラ」のロケ地にもなった。総理大臣官邸機能が立川広域防災基地に移転すると、各省庁機能も庁舎の使用可否を問わず一斉に立川広域防災基地周辺に移転することが決まっており、財務省本庁舎機能は立川税務署等が入居する立川地方合同庁舎に移転する。政府機能の立川広域防災基地への現実的な移転シナリオを立てなければならないのはなぜか。硬い地盤と耐震工事により総理大臣官邸及び各省庁庁舎の耐震性は確保され、また非常用発電機の燃料確保の取組により行政中枢機能の継続可能性は向上したとされる。他方で、庁舎の出入口閉塞、非常用発電機の故障など何らかの「原因事象」により都心部の庁舎が使えなくなるなどの「結果事象」にも備えなければならない。さて、西方向の道路啓開は中央道、首都高4号新宿線、国道20号を組み合わせて発災後48時間以内に最低1ルート確保することを目標としているが、ここでネックとなるのが「火災」と「自動車」である。先ず火災について。国土交通省の公表資料では全八方向について「木造密集地域が(広く)分布し大規模火災発生のおそれ」とし、特に西方向は「木造住宅密集地域を通過するため、火災の状況によってはどのルートも啓開できない可能性あり。」とあり、政府機能の立川広域防災基地への移転に不可欠な西方向の道路啓開ができない可能性を政府自らが公にしている。次に自動車について。「指揮心得」は「東日本大震災では道路上に残された自動車の大半が海水に浸かり、ほとんど廃車状態であったため、その撤去は大きな問題にならなかったが、首都圏などの震災では、無傷の状態で放置された財産価値のある自動車が道路を塞ぐことになる。早期に交通確保を図る上で、その処理についての研究が必要である。」と指摘する。この教訓は生かされ、平成26年災害対策基本法改正によって、緊急車両の通行を確保する緊急の必要がある場合、(1)道路管理者は区間を指定して緊急車両の妨げとなる車両の運転者等に対して移動を命令すること、(2)運転者の不在時等は、道路管理者自ら

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