ファイナンス 2023年12月号 No.697
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(出所)筆者作成損益国債先物の価格(b)プットの買い国債先物の価格KKK(c)コールの売り損益国債先物の価格*17) シンセティック・ショートについてはヘッジ会計を適用して活用することもありますが、金利スワップについてヘッジ会計を適用して活用することがVaRショック時にはシンセティック・ショートの取引が増えたという意見もあります。シンセティック・ショートとはデリバティブを用いることで、国債のショートのポジションを作ることです。例えば、読者が10年国債を保有した後、金利が急騰した場合、その銘柄が評価損を抱え、リスク管理部門からリスク量を落とすよう指示をうけたとします。この場合、当該銘柄は評価損になっているのですが、満期まで保有し続ければ100円で償還されるところ、この時点で当該国債を売却すると、損失が実現することになります。そのような中、デリバティブを用いて当該銘柄と逆の価格の動きを作ることができれば、評価損となっている銘柄を保有したまま、金利リスク量を落とすことで、事実上、売却したことと同じ効果(ポジションをニュートラルに近い状況)を得ることができます。これがシンセティック・ショートが金利上昇時に金利リスクのヘッジとして使われる理由です(もちろん、SCレポ市場で近い年限の国債を借りてきて、それを空売りすることでも似た効果が得られますが、ここではシンセティック・ショートを取り上げます)。図表13がシンセティック・ショートのイメージです。図表13の(a)が債券をショートすることによる損益ですが、これを「プットの買い(b)」と「コールの売り(c)」に分解することができます。シンセティック・ショートとはこのようにオプションを組み合わせることでショートのポジションを作る取引です。なお、服部(2021)ではプット・コール・パリティの文脈でシンセティック・ショートを説明しています。国債のシンセティック・ショートの引き合いでは、「プット−コール=キャリー(=利子収入−レポコスト)」という関係を用いますが、同論文ではその解説も行っていますので、興味のある読者は同論文を参照してください。金利リスクを落とす方法として、シンセティック・ショートの代わりに、同年限のスワップを払うという形も可能です。シンセティック・ショートと金利スワップを払うこととの違いは、シンセティック・ショートの場合、ある銘柄に紐づけてショートのポジションを作ることができるので、金利リスク量(デルタ)をゼロに近くすることができます(後述しますが金利スワップを払う場合、アセット・スワップ・スプレッドが変動するリスクが残ります)*17。シンセティック・ショートの場合、典型的にはタームは2週間から1か月であるため、そのロールをしていく必要があることや、前述のキャリーを構成するレポコストが上昇することがリスクです(現物国債のショートでヘッジする場合もショートを繰り返す必要があり、レポコストの変動がリスクになります)。図表14がSCレポレートの推移になりますが、2003年において一定程度の変動があることが確認されます。一般的です。シンセティック・ショートと金利スワップを払うことの違い*17図表13 シンセティック・ショートのイメージ(a)国債先物のショート損益BOX 2 シンセティック・ショートシンセティック・ショートの考え方 22 ファイナンス 2023 Dec.

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