ファイナンス 2023年12月号 No.697
24/82

86420図表9 銀行の有する有価証券の評価損益(国債と上場株)(兆円)図表10 共通担保オペを用いたアービトラージ評価損益(国債)評価損益(上場株)-2-4-620021Q2Q3Q4Q20031Q2Q3Q4Qhttps://www.boj.or.jp/mopo/mpmdeci/mpr_2006/mok0604a.htm証券会社20041Q2Q3Q4Q国債国債の購入国債を担保に日銀から借入国債国債を担保として提供国債日銀*13) この辺りの経緯を知りたい読者は清水(2004)を参照してください。*14) 下記を参照してください。 実際のところ、筆者の理解する限り、2003年の金利上昇の原因には諸説あります。VaRショックという名称からもわかる通り、前述のようなVaRのメカニズムを重視した解釈がなされる傾向がありますが、例えば、金融機関には各種リスクリミットがあり、金利の急騰に伴い、多くの金融機関がロスカットするなどにより金利上昇が進んだという見方もあります。これ以外にも、日銀による量的緩和が実施されていた期間であり、日銀による国債の買い支えが期待された中で、このタイミングでその期待が剥落したという議論もあります。海外での金利上昇が引き金になったという意見もありますが(これについては3.4節で議論します)*13、実際はこれらすべてが複合的に影響を与えたという可能性も考えられます。VaRショック時には、日銀がいわゆるシグナル・オペを実施したことも特徴です。共通担保オペは、現在、基本的に短い期間の資金繰りについて定期的に実施されているオペレーションですが、金利上昇時など特殊な場合に、例外的に長めの貸出を行うこともあり、これをシグナル・オペと呼ぶこともあります。シグナル・オペとは、適切な担保を日銀が受け取り、長い期間の貸し出しを金融機関に実施するレポ・オペレーションですが、かつては共通担保オペという名称ではなく、手形買入オペと呼ばれていました。2006年4月、ペーパーレス化に伴い、共通担保オペという名称に変更されたという経緯があります*14。シグナル・オペが金利上昇を抑える効果を生むメカニズムは、図表10の通りです。シグナル・オペを利用する金融機関が、日銀から低金利で資金を借り入れて、その資金を用いて、(証券会社から)国債を購入することができます。シグナル・オペを金融機関が用いた場合、金利リスクを一定程度抑えながら、国債を購入できる点も重要です。例えば、レポでファンディングした場合、基本的には短期間の借り入れであることから、その調達見合いで国債を購入した場合、資産と負債におけるデュレーション・ミスマッチが生まれます。その一方、日銀から期間の長い借り入れができれば、その分金利リスクを抑えながら中期債等を購入することが可能になります。VaRショック時、日銀は金利上昇に対応するため、9か月間という当時、最も長い期間のシグナル・オペを実施しています。具体的には、2003年8月27日および8月28日に、期間が9か月のシグナル・オペを1兆円実施しています(9月にも2回実施されています)。日銀の金融政策決定会合の議事録をみると、中曽宏金融市場局長(当時)は、シグナル・オペを実施した理由として、「手形買入(全店買入)なのだが、こちらについては量的な拡大だけでなく、期間も長期金融機関3.3 日銀による対応:シグナル・オペ 20 ファイナンス 2023 Dec.

元のページ  ../index.html#24

このブックを見る