(出所)筆者作成 図表3 2資産の関係のイメージ価格価格資産A資産B時間資産A資産C時間*9) 藤井(2016)はバーゼル規制にVaRの手法が採用されたことがVaRの普及と発展に大きく寄与したことを指摘しています。特にバーゼル規制における市場リスク規制における内部モデルの採用を金融リスク管理における「VaR革命」と表現しています。 VaRショックについてファイナンス 2023 Dec. 17りえるのです(実際にVaRショック時に債券価格と株価が逆の動きをしていた点は後程説明します)。過去の値動きのデータさえ得られれば、その相関係数を推定することが可能であり、それを考慮したうえでVaRを算出することができます。VaRは金融規制などとも密接な関係を有しており*9、現在ほとんどすべての金融機関で使われている普及したリスク管理の手法です。原理的にはデータさえ得られれば、株式や不動産投資信託(REIT)、ファンドでさえ統合的にリスク管理ができるため、非常に強力なツールといえます。もっとも、VaRにもデメリットがあります。基本的にはVaRは過去のデータに基づいて算出されているため、例えばかつての経験と全く異なる現象に直面した場合、想定以上の損失が発生することがあります。また、2商品の相関関係を推定することで統合リスク管理が可能になると述べましたが、かつて見られた相関関係が、将来にわたって同じ関係だとは限りません。さらに、VaRの実際の計算に当たっては、正規分布を利用する金融機関が少なくありませんが、正規分布に基づいてリスク量を計算すると、金融危機などの稀なイベント(いわゆるテールリスクイベント)を過小評価する可能性もあります。したがって、リスク管理の実務ではストレステストなどと併用されています(ストレステストについては服部(2023b)を参照してください)。2003年の金利上昇がVaRショックといわれるのは、VaRというリスク管理手法が金利上昇を引き起こしたという解釈があるからです。筆者の理解では、一部の金融機関による売りが引き金となり金利上昇が起きましたが(銀行による売買については次節で議論します)、そのメカニズムは次のようなものです。前述のとおり、VaRは過去のデータに基づいて計算されるため、過去の変動が大きければリスク量は大きく出ますし、逆に過去の変動が小さければリスク量は小さく出ます。したがって、デュレーションと比べたVaRの特徴は、仮に自分のポジションが変化しなかったとしても、リスク量が大きく変化する可能性がある点です。大切な点は、金融機関はリスク管理の観点からリスク量に制限が課されているため、ポートフォリオのリスク量が急に上昇した場合、そのリスク量を落とす必要性に迫られることです。例えば、読者が銀行の運用担当者だとして、リスク管理部門から、リスク量を落とすよう指示を受けたとします。VaRという観点でみたリスク量を落とすためには、保有している債券を売却する必要があるわけですが、これは金利が上昇している中、さらに債券が売られることを意味し、さらなる債券価格の低下(金利上昇)をもたらします。このことは金利の変動を大きくしますから、リスク量を落とすという行為そのものがリスク量(VaR)を上げてしまうという皮肉な結果が生まれます。深刻な点は、ボラティリティが大きくなることでVaRが大きくなる事態は、多くの銀行にとって同時に発生するため、多くの銀行が同時に債券を売却することになり、その影響が債券市場全体に波及してしまう点です。上記をまとめると、「価格の変動→VaRの上昇→債券の売り→価格の変動→VaRの上昇→債券の売り→・・・」という形で売りが売りを生むという循環的な構図が生まれます。2003年6月から始まった金利上昇は、このメカニズムが生んだ金利上昇と解釈されており、これはVaRに基づいたリスク管理が招いた金利上昇であることから、「VaRショック」と呼ばれています。この現象はシン(2015)が説明するところのミレニアムの橋の事例に似た現象ともいえます。シン2.3 VaRショックといわれる理由
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