ファイナンス 2023年12月号 No.697
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21.81.61.41.210.80.60.40.20(出所)財務省図表2 2003年におけるイールドカーブの動き(%)2003年5月末2003年6月末2003年7月末2003年8月末1234567891011121314151617181920(年)(注)ここでは1か月で見たカーブの動きの概要を把握することを目的としているので1年から10年、15年、20年金利をベースに単純な線形補間をしています。補間に関心がある読者は三宅・服部(2016)などを参照してください。中で最大という意味で最大損失額という表現が用いられています(実際、VaRは最大損失額という表現を使うことが多いです)。*5) ここの記載は服部(2021)を参照しています。*6) パーセンタイル値とは、過去の金利上昇のうち、悪いシナリオから数えて1%番目の「金利上昇」を金利リスク量という形でリスク量を算出する方法です。実際には、悪いシナリオからでなく、良いシナリオから99%番目(=悪いシナリオから1%番目と同じ)である99%タイル値を用います。また、実務的には、一定期間のデータを用い、金利変化から標準偏差を計算し、それに2.33をかけて99%タイル値を計算していますが、これは金利変化が正規分布であることを想定し、正規分布の99%タイル値が標準偏差σの2.33倍であることを利用しています。*7) このエピソードはハル(2008)などで紹介されています。*8) 99%タイル値であるにもかかわらず、VaRにおいて「最大損失額」と表現することに違和感があるかもしれません。ここでは「99%」の信頼区間のついてはパラレルに金利が上昇しているという特徴もみられます。なお、図表1をみると、VaRショックは6月から7月に金利上昇があり、一時的に落ち着いた後、8月にもう一度急騰しています。実は2013年4月の金利上昇時もこのような2段階での金利上昇があったことから、当時の市場ではVaRショックとの類似性という観点でも議論が展開されました(2013年4月の金利上昇についてはBOX1を参照してください)。VaRショックとは、VaRというリスク指標を契機としておこった金利上昇イベントとされています。ここではまず、そもそもVaRとは何かを簡潔に説明します*5。VaRとは、実際の資産価格や金利の動きに基づき、リスク量を算出する指標です。たとえば10年国債のリスク量を算出する場合、デュレーションに基づけば約10という金利感応度として算出しますが、VaRの場合、10年国債の利回りの過去の動きに基づき、リスク量を算出します。例えば、過去5年のデータを取得して、金利変化を計算し、そこから標準偏差を計算することやパーセンタイル値*6を用いることでリスク量を算出します。VaRを用いることのメリットは実際のデータに基づきリスク量を算出できることです。また、データに基づくことで幅広い金融商品を一つのポートフォリオとし、その「統合的なリスク管理」も可能にします。金融機関は国債などに加え、株式や社債など多数の有価証券を抱えており、その一つ一つが固有のリスクを持つがゆえ、今自分がとっているリスク量全体を把握することは容易ではありません。VaRは過去のデータを使うことで統合的なリスク管理を可能にするわけです。VaRはJPモルガンが開発した指標とされています。VaRを開発した背景には、当時の会長が毎日受け取る長いリスク報告に不満があり、ポートフォリオ全体をカバーしたリスクに焦点を当てた単純なものを求めたことがあるとされています*7。VaRを用いれば、「今私が抱えているポートフォリオ(ポジション)の最大損失額*8は過去のデータに基づけば○○億円です」と一言で自分のリスク量を表現することが可能になるわけです。例えば、読者が2つの金融商品(例えば株式と国債)を保有しており、それぞれのリスク量が100万円だったとしましょう。一つの考え方としてはそれぞれのリスク量が100万円ですから、このポートフォリオのリスク量はその合計である200万円だというものです。この考え方は、例えば図表3の左図のように、両者が同じ値動きをしていれば合理的でしょう。しかし、図表3の右図のように二つの資産価格が全く逆の動きをするものであれば、単体で持っていればリスクはあるものの、両者を同時に持つことでリスク量を相殺することができるとみることができます(このような資産間の値動きの関係をとらえる概念を「相関」といいます)。こういった2商品の例として、例えば10年国債を保有していれば金利の変動によって価格が変化するためリスクが発生しますが、国債の価格と反対の動きをする資産(例えば株式など)を買い、反対の動きのポジションを作ることで変動を相殺するということがありえます。このような観点でみれば、リスク量が大きい資産を購入することが、ポートフォリオ全体でみると、むしろリスク量を低下させることがあ2.2 VaRとは 16 ファイナンス 2023 Dec.

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