ファイナンス 2023年12月号 No.697
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*3) これ以外にも、例えば、2008年9月のリーマン・ショック時や1987年9月のタテホショックなどが我が国における典型的な金利上昇ショックとして図表1 2003年における各年限の金利の推移(%)10年2.11.81.51.20.90.60.302003年1月2月(出所)財務省2年5年3月4月5月6月7月20年8月9月10月11月12月*1) 本稿の作成にあたって、様々な方に有益な助言や示唆をいただきました。本稿の意見に係る部分は筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織の見解を表すものではありません。本稿の記述における誤りは全て筆者によるものです。また本稿は、本稿で紹介する論文の正確性について何ら保証するものではありません。*2) 例えば、麻生財務大臣(当時)は積算金利について「もう一点は、過去、今まで、例えば運用部ショックと言われた、平成十年でしたかのときに、あれは〇・九%が、いきなり、どんと二・〇まで上がったという、過去に例がありますのが一回。それから、もう一回激しかったのが、その後の、五年後のVaRショックのときに、このときは〇・五だったものが一・六だったかな、何かどんと上がった記憶があります。いずれにしても、一気に動いたという過去に例があります。(中略)したがいまして、過去と同様、これまでと同様、もし仮に金融市場にどんと何かショックが起きたときに、ちゃんとそのバッファーを持っておかないとえらいことになりますので、ある程度のリスクバッファー、そういうアローアンスをとっておかないといかぬというのが我々としての務めですので、金利の急上昇時の例というものを用いたものだと思っておりますので、一・一ぐらいのものを持っておかないと、もしもということに備えるのに対応できないというのが過去の例から我々が学んだことであります」と指摘しています。https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/009519320170215002.htm指摘されます。*4) 下記をご参照ください。 https://sites.google.com/site/hattori0819/ ファイナンス 2023 Dec. 151.はじめに本稿では、国債市場における代表的な金利上昇イベントであるVaR(Value at Risk)ショックについて説明します。金利上昇リスクを考える上で、政策担当者や市場参加者は過去の金利上昇に係るケース・スタディを重視しています。我が国における重要な金利上昇イベントとしては、1998年末の資金運用部ショックと、2003年のVaRショックがあり、これらは国債の利払い費を見積もる際の積算金利の計算にも用いられています*2。資金運用部ショックについては齋藤・服部(2023)で記載したため、本稿はVaRショックについて説明することで、かつての金利上昇イベントについて網羅することを目的としています*3。2.VaRショックについて2.1 2003年における金利の動き本稿は日本国債や金利リスクに関する基礎的な知識をベースにしています。国債の商品性や金利リスクの概要は、「日本国債入門」(服部, 2023a)をご参照ください。筆者が記載してきた金融規制の入門シリーズは、筆者のウェブサイトにまとめて掲載してあります*4。最初に、VaRショックがいかに激しい金利上昇であったかを確認します。図表1は2003年における2・5・10・20年金利の推移です。2003年6月に10年金利が0.4%程度、20年金利が1%程度であったところ、9月には10年金利が1.6%、20年金利が2%程度に上昇しています。10年国債のデュレーションを簡易的に10とすると、1%金利上昇するということは、10×1%=10%だけ価格が低下するということですから(仮に10年債を100億円保有していた場合、たった3か月間で10億円の評価損を被ることに相当)、いかに激しい金利上昇だったかがわかります。年限別にカーブがどう変化したかをみるため、イールドカーブの変化を1か月ごとにみたものが図表2です(ここでは1年から20年までの金利を示しています)。この図をみると、VaRショックにおいては、短期というより中期・長期・超長期の金利上昇が激しいことが分かります。また、短中期ゾーンについてはベア・スティープしている一方、長期・超長期ゾーンに東京大学 公共政策大学院 服部 孝洋*1VaRショックについて―2003年における金利急騰時のケース・スタディ―

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