ファイナンス 2023年11月号 No.696
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事例590 (1)X国に出国滞納者(X国籍)(2)徴収共助の要請国税当局(3)納付(3)催告(4)送金X国の税務当局(件)3530292520151310令和元年平成30年20令和2年令和3年出典:国税庁「令和4年度租税滞納状況の概要」(令和5年8月)15令和4年滞納者は、日本法人に勤務するX国籍の者で、給与等について確定申告を行ったが、その国税を納付せずに出国し、居住地をX国に移した。日本国内の財産については、滞納処分を行ったものの、滞納額が一部残った。これを受けて、国税当局は、租税条約に基づき、滞納者の居住地国(X国)の税務当局に対して、徴収共助の要請を行った。X国の税務当局が滞納者に催告を行ったところ、滞納者からX国の税務当局に滞納国税全額の納付があった。その後、X国の税務当局から納付額の送金があり、滞納国税の全額を徴収することができた。ファイナンス 2023 Nov. 505_P02-09_Tokushu_06.indd 505_P02-09_Tokushu_06.indd 52024/03/01 10:07:242024/03/01 10:07:24徴収共助の要請件数の推移日本X国事例の概要国税を滞納したまま出国した滞納者から全額を徴収した事例日本における徴収共助の実施平成25年の制度導入からの累積で 98件の徴収共助の要請を発出直近の事務年度には 15件の徴収共助要請を発出これらの積み重ねにより、徴収共助の実績は増加傾向にあり、直近の事務年度においては、外国当局に対する徴収共助の要請を15件発出している。平成25年の制度導入からの累積では、98件の要請を発出し、外国当局の協力を得て、実際に一定の滞納国税を徴収できている(下記事例参照)。この実績に対して、「この程度か」と思う読者もいるかもしれない。しかし、この件数には、徴収共助を行うための一定の条件が影響している。例えば、「要請国が自国の法令又は行政上の慣行下でとることができるすべての合理的な措置をとっていない場合」(税務行政執行共助条約第21条第2項g号)に被要請国は要請を拒否できるという要件があり、自国内でとり得る財産調査や徴収手段を尽くした後でなければ外国への要請はできない。そのほか、日本と徴収共助を実施可能な国の範囲(いわゆる徴収共助ネットワーク)が発展途上にあるということもある。日本との間で徴収共助の要請ができるのは、令和5年10月1日現在、米国や英国、ドイツ、フランス、オーストラリア、韓国など80の国・地域となっている。他方で、東南アジア圏などには日本と強い経済的関係があっても徴収共助ができない国もある。なお、国際的なトレンドとしては、今後もこの国・地域数は増加していくことが期待されており、国税庁も、国際会議や東南アジア圏の国を中心とした租税研修の場なども活用して、徴収共助ネットワーク拡充に向けた取組を続けている。

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